怒り、そして対策
「……ダメだ。戻って止血をしてくれ。治らないにしても血はなるべく抑えた方が良い」
「なら東の能力で傷口を固めて。それで戦える」
再び帰るように促すもやはりキリは断ってきた。
こうなったらサナに無理矢理にでも連れて帰ってもらう──
「アズマ。やっぱり私も戦うわ」
しかしそう考えた矢先にサナが参戦の意を示す。
「だからダメだって! ……こいつらの相手は二人には荷が重い。俺がやるから二人は──」
「私たちだって怒ってるの!」
「!」
なかなか言うことを聞き入れてくれない二人に少し声を荒げてしまう。
すぐに感情を抑えて二人を説得しようとすれば、その先を遮って今度はキリが声を荒げて叫ぶ。
「リリーが酷い目に遭わされて、怒ってるのは東だけじゃないわ。私もサナも、ニーナもユキナも怒ってる! 東が私たちのことを気にかけてくれてるのは分かってる。でも今回は引きたくない」
キリは優男たちを睨みつけながらほとんど刃が残っていない剣を構える。
その目には怒りの炎が灯っている。
「許せないから」
普段の彼女からは聞かない低い声で唸る。
「そうよ! あの貴族だってぶん殴らなきゃいけないんだもん。早く終わらせてリリーが起きるのを待ちましょう!」
キリの意見にサナが賛同する。
どうやら二人は完全に戦う気らしい。これ以上言っても聞いてはくれないだろう。
無理矢理にでも引くべきか? いや、それだと二人に遺恨が生まれる。
相性で考えるなら俺が剣士の相手をすれば、魔道具の面倒な効果はなんとかなる。
ただキリたちが相手をするモリアはかなりの実力者。
槍の技術とあの面倒な能力......は知っていれば対処はまだ出来るか。
それでも意表を突いてくることが多かった。
「......分かった。なら二人は槍使いの相手を頼む。ただしキリはあんまり前に出ないこと。その傷だと動くのもしんどいだろ?」
「これくらい平気」
「動きからしてそんなはずなかったわ。今回は私が主に前で戦うから、キリは私が危なくなったら加勢もしくは交代。それで良い?」
顔色の悪いキリのその強がりをサナが否定する。
「......分かった。それで大丈夫よ」
「念のためこれ以上血が出ないように傷口を凍らせるけど、痕が残ったりするから三分以内。それ以上かかりそうだと俺が判断したら強制的に帰らせるから」
彼女たちの意思も理解出来るが、すでに重症のキリを無理させ続ける訳にはいかない。
ましてや凍らせてしまえば他の皮膚まで大変なことになる。
水膨れや低温火傷、最悪壊死。
三分でも危険だろうけど、彼女たちの実力で考えたら一分では怪しいだろう。
妥協の結果なのでそこだけは受け入れてもらわないとこちらも了承出来ない。
「三分......それで大丈夫。ありがとう」
キリの肩の傷口に触れて、傷に沿わせて凍らせる。
「っ......? 痛くない?」
「一時的に『麻痺』させたからしばらくは痛みを感じないはずだ。だからって無茶しないこと」
「ええ、ありがとう」
まだ操作が甘いから張った氷が少し大きいな。動き難いか?
「そろそろ良ぇかい? そっち行っても」
こちらの話し合いが終わったタイミングでモリアが声をかけてくる。
「待っててくれるなんて優しいな。近づいてくれても良かったんだぞ?」
ずっと待っていてくれた二人の敵。
改めてそちらに視線を向けると、不満そうな表情を受けべているモリアとこちらをやや睨んでいる優男。
「よぉ言うわー。近づこうとしたら氷で攻撃しようとしてた人が」
文句を言う彼の声は笑っている。
バレバレか。先ほどキリから優男を退かすために使った氷の壁。
その残骸にモリアが能力で突っ込んできた際にやったように氷の管を伸ばしておいて、タイミング良く氷が出る仕かけを施しておいた。
ネタが割れると二度は通じないか。




