亡き者に、そして動かず
疑問について考えている間にウェンベルを氷漬けにした小僧は、左腕を癒しながら女共の方へと向かう。
「あり得ん......あのウェンベルがこうもあっさりとやられるなど」
「サヘル様、いかが致しましょう? 今であれば逃走する事が出来るかもしれません」
未だ現実を受け入れずにいる私に、隣にいる役立たずの騎士が問うてくる。
その言葉にウェンベルがあっさりやられたという事を抜きに、現状を顧みる。
作戦も逃亡も邪魔をしていたエーデンの騎士は主に小僧らの方へ向かって半壊。
加えてエーデンの所で一番厄介であるウェンベルも動けずにいる。
騎士の言う通り今なら逃げられる可能性は高い。
しかし──
「そうだな、ここは一度引くとする。ただし、その前にウェンベルを亡き者とする」
せっかく憎たらしく面倒な男が動けずにいるのだ。殺さずに去るのは勿体ないだろう。
氷に囚われているウェンベルの元まで来てみたが、目で此方を見る事しか出来ない奴の姿は滑稽である。
「さあ、ウェンベルを殺せ!」
騎士達に指示を飛ばす。が、全員が互いに顔を見合わせて動こうとしない。
「......何をしている。とっとと殺さんか」
少し眉根が寄る。
再度指示を出すが、やはり動かない。
「っ! 貴様ら、私の言葉が理解出来んのか! さっさと殺せと言っているのだっ!」
その態度に怒りが爆発し、今まで一番の声で命令を下す。
それでようやく自分達が何をしなければならないのかを理解したらしく、駆け足でウェンベルの周りを囲う。
しかし何を躊躇っているのか、奴の前で武器を構えて固まっている。
「これが最後だ。ウェンベルを殺せ」
こういう役立たず共には声を荒げるのではなく、散々言わねば分からんらしい。
「......」
しかし私がこれだけ言っても動こうとしない。
はあー、本当に使えん。せめてもう少し使える奴が残ってくれれば良かったのだが......いや、使えん奴だからこそ生き残ったのかもな。
何も出来ない者で敵に向かって行く事諦めたため生き残ったのだろう。
「そいつらぁはもう無理やでー」
完全に呆れていると横から軽い物言いで声がかかる。
声とその物言いで既にその主が分かるが、一応其方へ視線を向ける。
すると案の定モリアが飄々とした表情を浮かべて此方を見ている。
「無理だと? 流石のウェンベルでも小僧によって動けなくされているのだ。この状態であれば子供でも殺せるであろう」
「そぉれが出来るとしたら、それこそあの坊やだけや」
「意味が分からん。あんな小僧でなくとも殺す事くらい余裕だろう」
「出来ん、出来ん。ウェンさんの意識があるうちはぁ、並大抵の者じゃ刃向かえんって」
安易に殺せるはずの状況だというに、モリアはそれを頑なに認めようとしない。




