異変、そして拘束
「さー、ワイは自由になったでぇ」
「リリー!」
顔色が悪く、表情が少し歪んでいるにも関わらず小僧にドヤ顔で言ってのけるモリア。
その言葉の途中に公判で生意気にも異議を申し立てた子娘の声が被る。
それ故私達の視線は其方へと向く。
被告も含め六名......ん? 五名? 銀髪の剣士、銀髪のエルフ、獣人の姉妹そして倒れている被告の少年。
フェーネは何処へ行った? 先程見た時は......居た、はず......記憶がハッキリしない。しかし居たはずだ。
「リリー⁉︎」
どうやら小僧も其方を見ていたらしく、倒れている被告の名を叫ぶ。
「油断はぁ、あきまへんって!」
「っ!」
視線を戻せば、隙を見せてしまった小僧に迫っているモリアの姿が映る。
そして確実に首に入る突きを放つ。
「ンぐぅっ⁉︎」
「はっ!⁉︎」
それをあろう事か小僧は、咄嗟に左手で受ける。
当然槍は左手を貫通し、小僧の首元へ......行かず、途中で止まった。
「はあー! ホンマにどうなってんねん! なんでそんなバカげた事が出来るんや‼︎」
そのあり得ない事態にモリアが憤慨する。
「いくらダンジョン攻略者やとしても、流石にこれはデタラメ過ぎや!」
「知るか。今はお前に構ってられないんだよ。とっとと凍ってろ」
「!」
モリアが何か意味の分からん事を叫んだが、それを意に介さず小僧の右側から氷が走り、モリアの足に絡みつく。
回避する間もなく氷に足を取られ、さらに氷は伸びていき、奴の腰の辺りまでくると氷が分技する。
分技した氷はそれぞれモリアの両腕を捕まえる。
早い。モリアがほとんど反応出来ていない。
唯一氷が上がってくる前に行動出来たのは、小僧の手から槍を引き抜こうとしたが、あの状態で抑えられ槍を持ったまま腕にも氷が絡みついた。
そうして完全にモリアの動きを封じると、槍から手を引き抜き始める。
「ん......ぐぅ、ぁ......」
グジュブチュっと耳障りな肉と血の音が鳴りながら、血が微かに飛ぶ。
そして銅金部分まで行っていた槍から手を抜く。
その際に派手に血が飛ぶ、事はなく腕をダラリと垂らしても流れ出てこない。
目を凝らせば掌に赤い氷が張っている。
抜いた瞬間に自身の血を凍らせて出血を抑えた?
「リリー」
モリアとの戦闘でだいぶ疲労したらしく声がやや重く、暗い。
それでも子娘達の方へと走り出す小僧の体力や気力は一体何処から来るのか。
「モリアではやはり無理でしたか」
「っ」
その道中、横から一気に迫ってきたウェンベルが一閃する。
それを紙一重で身を仰け反らして躱す。




