距離、そして貫く
モリアが小僧の攻撃を徐々に凌げなくなっていく。
「お前の能力は一定の距離が必要なんだろ?だからこうしていれば、もう喰らうことはない」
「ンんっ! さあ、どーやろなぁ」
「誤魔化している場合か」
剣による突きを躱したと同時に片腕で槍を右下から脇付近目がけて斜めに振り上げる。
「喋るのに夢中で油断したらぁ、あきませんでー!」
「してねえよ」
迫りくる槍を肘振り下ろして、直撃させる。
「痛っ......さすがに無茶だった、なっ!」
「嘘、おぐっ⁉︎」
胴体に当たる代わりに腕で受けたのだろうが、その言葉程度で済むはずがない。
片腕で満足のいく体勢からでないにしても槍のあの一撃はかなりの打撃。あれでも骨が砕けているのが妥当なダメージのはずだ。
それだと言うにあの小僧は少しだけ顔を歪ませるだけで、受けた直後にその手で槍を掴む。
そして槍ごとモリアを引き寄せ、前のめりになったモリアの左二の腕に右回し蹴りを叩き込む。突きを放った体勢だったというのに、槍と腰の回転、遠心力で蹴りを行ったのか。
「手ぇ、離してくれやあっ!」
「うおっ」
しかしその攻撃を受けてもモリアはさほど体勢を崩さず、むしろ前のめりになって地面に着こうとしていた足を強く踏み下ろし槍に乗る小僧を振り上げる。
なんて力だ......小僧とはいえ人一人を片手で持ち上げたぞ!
「はぁ......はぁ、重いなぁ......もっと痩せぇや」
そんなデタラメな事を成した本人も、流石に疲弊し文句を言う。
たまらず振り上げられた槍から手を離し、空中で回転して着地する。
「失礼だな。これでも標準よりは軽い方だ──っ⁉︎」
息を整えつつ小僧から距離を取ろうとしているモリアを逃さず追おうとした矢先、モリアがその道中に何かを投げる。
するとそこで小さな爆発が起こる。
突然の事ではあったが、残念な事に爆心地が小僧から少し離れた位置だったため当たる事はなく、被害を受ける前に後方へと飛んで避けられてしまった。
「終いや」
その言葉が聴こえた時にはそれは起こっていた。
「ぐアあっ⁉︎」
大きな断末魔と共に血が吹き上がる。声を上げた彼は貫かれている。
距離を取り、小僧が下がったその瞬間にあの技を使ったであろうモリアの右脚、太ももの部分にヒビの入った太い氷の柱が貫いている。
そしてその太い氷の柱は小僧の足元から生えている。
何が、起こったのだ......
「おい! 今、何が起こった⁈ 何故モリアがああなっている⁈」
私では理解出来ず、それを見ていたであろう騎士に問いかける。
しかし呆けているのか、しばらくの間返答が返ってこない。
「おい、聞いているのか!」
「......っ! 申し訳ございません! 私が見えたのはモリア氏の声がするほんの少し前に、少年の足元から氷の柱が現れたかと思えば、そこにモリア氏の脚が貫かれていました。それで......申し訳ございませんが、何故そうなったのかは分かりません」
我に返った騎士から説明、ではなく目撃情報のみと謝罪を受ける。
「役立──」
「お前の能力は高速移動だろ?」
その不甲斐なさから再び罵倒をぶつけようとした所で小僧が喋り始めた。
それに反応して、言葉を止める。
高速、移動......?
「確かに速いけど操れないのなら使い勝手が悪い。実際途中に罠があっても避けずに喰らった」
「......くっ!」
能力について語っている小僧に向かって突きを放つ。しかし氷に脚を捕らわれてほとんど踏ん張れない体勢のためなのか、今までよりも威力がなさそうに見えた。
それを肯定するかのように簡単に避けられてしまう。
「動くだけで激痛だろ。大人しくしてろよ」
「ふぅ......ふぅ......ききゃ、ワイはまぁだ死んであらへんよ? そんな呑気でいると、痛い目ぇ見るでっ!」
威勢を張りながら槍を右へと横凪に払う。
しかしそれを身を僅かに引いてギリギリで避ける。
「だぁから油断したらあきませんって言うたですやん」
その避けられた槍は軌道を変え、弧を描いて下へと下っていく。
そして勢い任せで氷の柱を叩く。
「ンっ!」
小さく、くぐもった声が僅かに聴こえた。
元からヒビが入っていたためか氷の柱はそこから砕け、モリアの脚が自由になる。




