逆転、そして焚きつけ
「どないしはったん? さっきから防戦一方やでぇ」
「気にするな。お前こそ攻め切れていないじゃないか。また能力を使えば、今度こそいけるかもしれないぞ?」
互いに相手を煽る。それが事実だけにタチの悪い言い合いだろう。
「その手ぇには乗らんよ」
「乗らないのなら、もうどうしようもなくなるぞ?」
「......あ、きゃっきゃっきゃっ! 見栄張らん方が、身ぃのためやでー?」
「なら、これでどうだ」
しかし小僧のブラフには乗らず、攻める手を緩めようとしないモリア。
それを切り目としたのか、今まで防御に徹していた小僧の動きが変わる。
今まで同様に放たれた突きを氷の剣で大きく払い上げる。
その無理矢理の行動に氷が少し欠けるが、最初の様に全壊とまではいっていない。
「ほら、土手っ腹が空いたぞ」
「んぐっ⁉︎」
そして体勢が崩れ、おまけに大きく空いた腹部を蹴りつけ後方へと飛ばす。
しかしそんな小僧の突然の攻撃だったというのに、モリアは咄嗟に片足で地を蹴って空中で宙返りし、危なげなく着地する。
「二回目は流石に通じんでぇ」
「そっちだっけ対策出来ても意味ないだろ」
「っ!」
したり顔を浮かべているモリアの背後へ既に回りきっていた小僧が剣を振り下ろす。
それを声をかけたからなのか、気配を感じ取ってか、はたまたただの勘か。
いずれにしてもその一撃がモリアに当たる事はなく終わった。
たまたま着地の際に少し屈んでいたのが功を成したらしく、その場から横へ倒れる様にして剣を避けられた。
そして転がってから片手で身を起こし、さらに小僧から距離を取るため後方へ走る。
しかしモリアを逃そうとはせず、小僧が追いかけ剣を振るう。
先程とは打って変わって今度は小僧が攻め続け、モリアが守りに徹する。
「もうそろそろ目が見え始めている頃だろ。自慢の能力を使う前に終わるぞ」
小僧はそう言ってモリアを焚き付ける。あの小僧は一体何を狙っている? そもそも先の一撃、声をかけなければもしかしたらそこで終わっていたかも知れぬというのに......
「そないに言われると、やり辛いなー」
見えずにいるモリアでは小僧の攻撃を完全に対処する事が出来ないのか、いくつかの攻撃は受けてしまう。
そのため常に距離を取ろうとしている。
それを追いかける小僧が、いきなり剣を横へと投げた。
その先にモリアはいない。全く別のものを狙って投げられたそれは、ここから離れた位置で戦っていた小僧の仲間達の相手によって砕かれた。
エーデンの騎士に向かって投げた。あの距離から正確に......
見れば短めの髪の獣人がその場に膝を着いて、エーデンの騎士を見上げている所だった。
仲間の窮地を救ったのか。
モリアを相手しながら周りにも目を配っている? だから少し前、私がこの場を去ろうとした際に氷で止めにかかってこれたのか?
そうなのだとすれば、流石にモリアを舐めているのではないか?
先の騎士曰く、実力は私の騎士で部隊長クラス。
そんな腕前を持つ相手にだけでなく、周りにも注意を払うなど舐めている。
いや、しかしあの妙な技以外を見れば相手をする事が出来ていた。つまり小僧にとってモリアは十分に勝てる相手だからこそ、周りに注意を払う事も出来る、と?
そう考えれば、その行動も頷ける。
しかしそうなると先の最大の機会を失くしたのが引っかかる。
先の一撃でモリアを殺せていれば、仲間の元へも私をどうする事も出来た。
その機会を捨ててまで、小僧は何を狙っているのか。それが気になる。




