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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第7章 アンタレス王国〜ユキナ奪還〜
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侵入、そして破裂

 

「はぁ...はぁ...」


 あれから数十分は走り続けているがまだまだ何も見えてこない。一応こっちの世界に来てからは、獣人族のサナたちよりは劣るにせよかなり足は速くなっている。

 確かニーナがこの国の地図を船員から借りて来てくれたやつだと、さっきまで俺たちがいたところは港ではあるが、基本的には国民が住んでいるエリア。

 基本的と言ったのはその近くに鉱山があり、国民はそこで収入を得ているそうだ。ただその国民の半数以上が奴隷らしく、そこで奴隷たちは過労で倒れるほど働かされているそうだ。

 話を戻して、その港エリアからかなり離れたところにさらに国民のエリアがある。ただそこの国民たちは商人などもいることから上民(じょうみん)とも呼ばれているそうだ。ちなみに港の国民は下民(げみん)と呼ばれている。そしてその上民エリアをさらに超えたところに貴族などの家が建ち並んでいて、その奥が王宮となっていた。

 だから今俺が走っている道は上民エリアまで行くための道になる。


「そてにしてもこの道、はぁ、はぁ、どんだけあるんだ?はぁ...」


 走り出してからすでに10キロくらいは走っているが本当に何も見えて来ない。しかも今は坂を上っているので余計に辛い。


「待ってろよ、はぁ、ユキナ...」


 ______________


「はぁ、はぁ、はぁ....つ、疲れた...」


 あれから長い坂を上り切ってしばらく走るとようやく建物が見え始めたの安心したが、それも一時のことだった。

 数メートル先には幅100メートルはある運河があった。「そういえばこれも地図にあったな」などと思いながら吊り橋を探し、渡ろうしたところで板が抜けた。何とか縄を掴み、必死に橋の上へと戻った。

 高さはざっと60メートルくらい。流れもかなり早いので落ちたら終わってたな。

 何とか橋を渡りきって走り出すが次は魔獣に遭遇した。周りには腹から血を流して倒れている馬と上半身と下半身、首と胴体がそれぞれ離れている男が2人その魔獣の側に倒れていた。

 魔獣はダンジョンの中でも何度かごちそうに、ではなく倒したウッドマンだったのですんなり倒してから走り出し、約2キロくらい走って今に至る。

 ユキナの霧は上民エリアの奥へと続いている。

 俺はまだ整ってない息など放っておいて、ユキナの元へ走る。が、人や店などが邪魔で思うように走り続けることが出来ず、仕方がないので一旦路地裏へと移動する。

 人の気配がないのを確認してから宝物を開き、(あらかじ)めカレメローンの鱗を付けておいたローブを取り出す。

 ローブを羽織り魔力を流すと徐々に俺の姿が見えなくなっていく。これは数日前に暇を潰すために実験していた。何故か物を通しても光を屈折出来るようなので服で試したらちゃんと消えたので、ローブに付けることにした。フードを外せば姿が見えるようになる。


「よっ、ほっ」


 姿を消して壁を蹴って屋根の上に登る。これなら他人に俺の姿が見えないので騒がれずにユキナの元へ行ける。

 しかしユキナの霧は道の方にあるので少し見え辛いな。


「よっと」


 屋根伝い霧を辿(たど)って行くうちに人が少なくなくなっていったので地面へと降り、フードを下ろして霧を辿る。

 奥の方はこことは一風変わった建物が並んでいる。


「あれが貴族たちが住んでいるエリアか」


 霧は真っ直ぐ、貴族たちのエリアへと伸びている。

 しばらく走ると門のような物が立っていた。高さは20メートルくらいだな。周りに木があれば飛び越えられなくもなかった。

 さらに少し行くと門番が立っていた。


「?おい、止まれ」


 そう言って男に呼び止められ、槍で進行を止めさせられた。

 男は2人。右の男はヤクザのような顔にがっちりとした身体。ガールさんやボルグ(質屋の店主)さんとほぼ変わらない体格だ。この耳は猫かな?顔に似合わず可愛い種だな。

 左の男は隣と比べるとかなり小柄である。背も俺より少し低い。目つきが悪く、人を小馬鹿にしそうな顔である。

 右の男は昔のヨーロッパの擲弾(てきだん)兵という兵士が着ていたような服を着ている。

 左の男はドイツの兵が着ていた軍服ような服を着ている。ヘルメットは被っていないが。

 ちなみに俺を呼び止めたのは右の男。


「何か?」

「貴様、この先に何の用だ?」

「....」

「どおした?」


 困ったな。ここは素直に言っても通してもらえるとは思えないな。

 しょうがない。


「俺は先日ここに立ち寄った旅の者で、この先が何なのかを知らない。この先のことを教えてもらえると幸いだ」

「「.....」」


 2人は目を細め俺の格好を舐めるように見回す。苦しいかな?

 そう思っていると右の男が口を開いた。


「この先は、貴族様が住むエリアだ。貴様が通っていい場所じゃねえ。帰れ」

「...そうですか。これは失礼した。では」


 俺は愛想笑いを浮かべて引き返す。


「....ちょっと待って」


 が、行こうとしたところで今まで黙っていた左の男が口を開いた。


「何?」

「貴様、旅でここに寄ったと言ったな?」

「ああ。それが?」

「ならこの国へ入る際に必要であろう、胡通硬貨(こつうこうか)。商人だとしても権利証を持っているはずだ。見せろ」

「.....」

「.....」


 胡通硬貨。俺らは不正入国はしていないが、そんな硬貨はもらっていない。


「まさか持っていない、とは言うまい?」

「.....悪いけどそんな硬貨はもらってないな」

「ほお」


 男は腰に下がっている剣へと手を伸ばす。


「.....」

「.....」


 しばらくの間、無音が続いた。男はただ俺を睨んでいるだけ。

 数分ぐらいに感じられる。

 そして男は剣を抜く体勢を辞め、口を開く。


「貴様の言う通り、そんな硬貨はない。時間を取らせたな」


 何だよそれ。まあ、怪しまれても無理はないか。


「では」


 俺は軽い会釈をしてその場を離れる。彼らから見えないところまで来たところでフードを被り、再び姿を見えなくする。


「一応、あいつらから離れたところから侵入するか」


 そう思い、右の方へと走る。

 問題は侵入した後だな。さっきの門のような警備だとありがたいんだがな。最悪数人と闘う羽目になりそうな予感がする。

 そんなことを考えている間に、門があった場所から数百メートルほど離れたところで立ち止まる。


「ここなら少しくらい音がしても直ぐにはこれまい」


 俺は宝物庫から風尚核と布を取り出す。布を広げて俺はその上に乗る。予め小さな風尚核を布のちょうど真ん中くらいに置いて置く。後は布越しに風尚核へ魔力を流すと。


「うおっ⁉︎」


 風尚核から風が吹き出しそれにより布が浮かぶ。なんかサーフィンをしている気分になるな。やったことないけど。

 そのまま勢いよく上昇する。


「やべっ⁉︎」


 が、風尚核に流した魔力が切れ、風が止んでしまい落ちかけたがギリギリで壁を掴むことが出来た。


「ふんっ....っと。よし」


 なんとか壁を登り、そのまま中へと侵入する。後になって千里眼で中を覗いてからゲートで侵入すれば良いと気がついた。


 ______________


 東が貴族エリアへ侵入し、ユキナを探している時だった。


「して、今回の物はどのようなものかね?はん...んん、んん...」


 そう食事の手を止めずに話をする真っ赤なサーコートに青のブリーチズという豪華な服を着ている男。(しかし似合っているかと聞かれたら、悩んでしまうほど)

 年は40代後半ら辺。毎日豪華な食事をしているせいなのか、かなり太っている。頰は肉まん1つはありそうなほどある。椅子は身体で隠れて見えないが、彼への特注品である。そんな椅子から時々悲鳴のようにギシギシと音が鳴り響く。


「はい。今回はこちらを買い取っていただきたく、参りました」


 そう言って男がその場から退き、後ろで眠っていたユキナを見せる。

 その姿を見て口へ運ぶために伸ばしていた手を止め、ユキナの顔をジッと全身を舐めますように見る。


「ほお....エルフか」

「さようでございます」

「ふむ....髪と胸がやや気になりはするがいい顔をしておるな」

「でございましょう?」

「んん.....」


 男は少しの間目を瞑り、唸り始めた。

 そしてしばらくして目を開き、口を開いた。


「良かろう。して、いくら欲しい?」

「そおですね....サヘル様には日頃お世話になっておりますので、4ドドンと50フランでいかがでしょう?」


 ドドンやフランというのはこの国の硬貨の単位で、ベル-ドル-リラ-ウォン-フラン-ドドン-ダイヤンの順である。ドドンは1枚で白金貨、100枚分表される。フランは1枚で金貨1枚と同じである。

 つまり日本円で約450万円となる。

 

「4ドドン50フランか....貴様にしては安くしたではないか、ドグラ」

「いえいえ。私のような者が生活していけるのも、全ては国王とサヘル様のお陰なのですから」

「そうか」


 男、もといサヘルと呼ばれた男は笑みを浮かべ、グラスに入った酒を一気に飲む。


「...はぁ。それで買ってやろう。代金はいつも通りでな」

「はは...ありがとうございます。それでは私たちはこれで」

「うむ....」


 そう言って男たちはユキナを置いて部屋の外へと消えていった。

 そしてサヘルはいつものように執事やメイドたちを部屋から出し、一息を突いてから未だ眠り続けているユキナへと近づく。


「んふぅー....まさかエルフの餓鬼が手に入るとはな〜。他の者に高値で売ってもよいが、折角の上玉をミスミス逃す手はないな。まだ餓鬼だが安心しなさい。私がお前を私無くてはならない身体にしてやるからなぁ?」


 男はそう言い(よだれ)を垂らし下卑た笑みを浮かべながら右手をユキナの胸へと移動させ、


「グフフフフ」

「大変ですっ!サヘル様ぁ!」

「⁉︎....貴様!部屋には入るなと言ったであろう!」

「それが大変なのです!」

「ええーい、黙れ、黙れ!私の楽しみを邪魔したのだ!言い訳など聞かん!貴様も私の奴隷してくれるわ!誰かこの兵士を捕まえよ‼︎」


 サヘルがそう言い終えると、何処から現れたのか、数人の武器を持った男たちが今来た兵士を取り囲んだ。


「捕まえて、(ろう)へ閉じ込めておけ!あとでそ奴も奴隷にする」


 サヘルの命令に男たちは後退りをし戸惑ったがすぐに命令通りに兵士を取り押さえ、牢へと向かった。その間も兵士は「話を聞いてください、サヘル様」と何度も叫んだが無視され続けた。


「全く、折角の良い気分が台無しではないか。....これは少し気分転換が必要であるな」


 そう言い横目でユキナを見る。その顔は先ほどとは比べものにならないほどイヤラしく、気持ちの悪い下卑た笑みを浮かべていた。

 そして今度は手を下の方へ伸ばし、触


「おいテメェ。今すぐそのクソな手を退けろ」

「⁉︎がっ⁉︎」


 触ろうとしたところで今度は知らない、ドスの効いた声が聞こえたのでサヘルが後ろを振り返るとほぼ同時に何かが額に当たった。

 そしてユキナの身体に1度も触ることなく、サヘルはその何かによって2メートル半はど吹っ飛ばされた。


「....っつ」


 サヘルは頭を抑えながら起き上がり、少し頭を振って意識をはっきりさせてから扉の方を見る。するとそこには忘れていたゲートを使い、城内へ侵入した東が立っていた。

 ゲートは千里眼とコンボさせることが出来るのを前に王様が教えてくれたのだが忘れていた。


「な...何だ、貴様は⁈」

「あんたに名乗ってやる義理はないね」

「っく⁉︎」


 額から血を流しているサヘルの顔が徐々に真っ赤になっていく。


「貴様!私を誰だと思っている!私はアンタレス王国のサヘル・トライスチレム・ボワン伯爵だぞ!」

「んなこと知るか」

「くっ....」


 サヘルはギリギリと歯軋(はぎし)りをしながら、さらに顔を赤く染めていく。よほどご立腹のようだ。下手したら顔でお茶でも沸かせそうなほど真っ赤である。


「ええい!何をしておる!さっさとその男を捕まえて牢へぶち込まんか!」


 サヘルの叫びに従い、さっき捕まえた兵士に1人が付いて、残りは東を取り囲むように、というか取り囲まれた。


「.....」

「うっ....」

「何をしておる!さっさと捕まえんか!でなければ、貴様らの食事は一生なしだ!」

「ぐっ....うおぉぉっ!」

「「「おおぉぉぉっ」」」


 4人の男たちは気が引けた感じながらも威勢よく持っていた木で出来た槍で俺を取り抑えようと突進してきた。


「んんっ!」

「...ふっ」

「ぐほっ⁉︎」


 右にいた男が先に槍を振り下ろしてきたので、それを身体を少し横にずらして避け、空いた隙に右肘で溝を突くと男は倒れた。


「このっ!」

「おらっ!」

「....」

「「「「⁉︎」」」」


 次に前にいた男と左にいた男がほぼ同時に攻撃をしてきたので、槍の逆輪(さかわ)と呼ばれるところを握って止めた。


「ん!んっ!」

「このっ!このっ!」

「....」

「何をしておる!早くそんな手、解いて捕まえんか!」

「し、しかし。こいつの力が強すぎ、解くことが出来ないのです」

「はぁ?何を馬鹿なことを言っておる。こんな子どもにそんな力があるはずもなかろう。それとも貴様ら奴隷はそんな子どもに負けるほど腐っておるのか?」

「そんなはずは...」

「なら早よお、その子どもの手から槍を」

「.....」


 バキッ!

 部屋の中が静まり返った。

 サヘルたちが音のした方を向くと先端のなくなった槍から手を放した東の手からボロボロと木屑(きくず)が落ちる。

 サヘルたちはその光景をまさに有り得ない物を見る顔で見ていた。

 確かに男たちはサヘルと長々話している間も決して力を抜いて解こうとはしていなかった。

 しかしそれでも解くことが出来なかった。それだけ東と男たちとではレベルの差があることサヘル以外は理解した。


「⁉︎貴様らが手を抜いたせいで私が与えてやった槍がこんな子どもに折られてしまったではないか!貴様らにもう飯などない」

「そんな⁈それでは私たちは死んでしまいます。どうかお許しを」

「ならばその子どもを捕まえろ!そうしたら考えてやらんこともないぞ?」

「ありがとうございま...す」


 ドタッ

 男は最後にそう言うと気を失って倒れた。それを見ていたサヘルや他の男たちにも何が起こったのかが理解出来なかった。


「ぐほっ⁉︎」

「うっ⁉︎」


 そして残った男2人も気を失い、倒れた。


「何だ⁈一体何が起こったのだ?それにあの子ども何処、へっ⁉︎」


 サヘルは急に自分の足が地面に着いている感触がなくなり、バランスを崩して倒れかけたがなんとか四つん這いで倒れるのを防いだ。


「何だ?今何かが」

「おい」

「...ひっ⁉︎」


 東が足払いをして四つん這いになったサヘルは声のした方を顔だけ上げると自分の首のすぐ横で光る物が視界の端に映ったので、横目で見るとそれが剣だということに気づき、短い悲鳴を上げる。


「動いたら斬るぞ?」

「...分かった。金ならいくらでも払う。何ならお前の後ろで寝ている娘。あれはエルフだ。さっき買ったばかりのまだ新鮮な」


 言葉を続けようとしたところで目の前の剣が現れた。急なことで言葉が詰まったらしく、汗をダラダラ垂らしながら目をパチクリさせている。


「買った?」

「...そそ、そうだ。買ったのだ。ついさっきこのエルフを捕らえた者たちが来て、私に売ったのだ」

「そうじゃねえよ!」

「んぐっ⁉︎」


 俺はそう叫んでサヘルの胸ぐらを掴んで顔を近づける。


「人を、ましてや俺の大事な仲間を買っただぁ⁈ふざけんなっ!」

「ぐほっ⁉︎」


 手を離して腹に勢いよく蹴りを入れる。サヘルはかなり飛び、部屋の壁まで、約7、8メートルは飛んだと思う。

 さっきまで食べていた物を吐き出している。

 俺はサヘルへ近づき、再び剣を向ける。


「2度と俺の仲間に近づくな」

「は...ははは、はい」


 俺は剣を鞘に納めてユキナの元へ近づく。ユキナを抱きかかえて声をかける。しかしユキナは唸り声を上げるだけで目を開けない。俺がさらに激しく揺らすと目を開けた。


「んん...ん....」

「ユキナ!」


 俺はユキナが目を開けたことに安堵の息を漏らす。


「ユキナ」

「.....⁉︎嫌!離して!」

「⁉︎」


 そう言ってユキナは暴れ出し、俺から距離を取るように逃げた。


「どう...なっているんだ?」


 両耳を手で塞いで小さくなりガタガタ震えながら何かを呟き続けているユキナ。俺はそれをただ見守る。


「....」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい....(小声)」


 俺はしばらくの間震えるユキナをただ呆然と見つめ続け、次第に怒りが湧き上がってきた。

 俺はサヘルの方へと振り向き、睨みながら口を開く。


「おい、これはどういうことだ?一体ユキナに何をした⁈」

「ふんっ、私が知ったことか」

「....」


 俺は立ち上がりサヘルの方へと向きを変える。

 ドンッ


「っひ⁉︎」


 そして右足に力を入れて前へと飛び、サヘルの前で止まる。剣をサヘルの首横に向けながら口を開く。


「じゃああの腕輪は何だ?」

「あれは...私の物ではない」

「嘘を吐くな。あの腕輪からは微かだけどお前の霧が出ている。お前の物だろ?」

「き、霧?何を言っているのだ?そんな物、私には見えんぞ?貴様頭可笑しいのではないか?」


 そう言いサヘルはにぃ〜と笑う。状況分かってんか?こいつ。

 仕方がない。


「じゃあ、力尽くで」

「は?..⁉︎つっ!」


 俺は剣でサヘルの首を少しだけ切る。だいたい血が少し出るくらいの深さにしたので、多少は痛いが、これで恐怖は染み込んだだろう。


「早く言わないと、次は殺すぞ?」

「ひいっ⁉︎」


 サヘルは短い悲鳴を上げ、ガタガタ震え始めた。

 本気で殺したいと思うが、それを理性で抑える。しかしそれもギリギリだ。


「分かった、言う!言う!だから、命だけは!」

「なら早く言え。あの腕輪は何だ?」

「あれは装着者の魔力を使って過去を呼び覚ましす魔道具(アーティファクト)だ」

「魔道具?」

「その過去をさらに幻覚と幻聴を使って精神を破壊していく。それがあの魔道具だ」

「それはあの腕輪を外せば止まるのか?」

「無理だ。あの状態だと、ほぼ完全に精神は狂っている。もう貴様がいくら声をかけようがまともにはならんだろうよ。第一、あれを外せるのは着けた者だけだしな」

「....」


 サヘルは最後の方で「ざまぁ」と言うかのような顔を浮かべたが、そんなことは無視だ。

 俺はサヘルを投げ飛ばし、ユキナの元へと近づく。

 ユキナのとの距離があと数歩というところでユキナが俺を見てその場に崩れ落ちそうになったので慌てて受け止める。


「おい、ユキナ!ユキナ!」

「...すぅー...すぅー...」

「ユキナ...」


 どうやら意識を失って眠っただけのようだ。しかし寝ながら唸り声や“助けて”や“ごめんなさい”と寝言を言う。どうやら夢の中でも幻覚を見せられているようだ。

 俺は少し考え、ふとサヘルの言った言葉を思い出した。

 魔力で幻覚を見せているのなら、その魔力を吸ってしまえばいいのだと。


「待ってろ、ユキナ。今助けてやるからな」


 俺はユキナに小声でそう言うと、深呼吸をしてからドレインを発動させる。

 ドレインやウォーミルは手全体で発動させるよりも指の1本、1本で発動させた方がより速く、より強くなる。なので右腕の指5本を使ってドレインを発動させる。

 そして...


「...んっ‼︎⁉︎」

「⁉︎」


 グシャッ

 それは到底文字で表すことの出来ないような音が部屋の中で響いた。

 そして自分の視界に映っているはずの物がなく、代わりに血の海が視界へと飛び込んできた。

 俺は恐る恐るあるはずの物へと視線を向ける。するとそこにはあるはずの右腕ではなく血が滴る肩が視界に入った。


「あっ.....」


 そして次第に激痛が走り、声にならない声を上げながら右肩を押さえる。


「あっ....あぁぁぁぁっ......あぁぁぁっ....」

「ひぃっ⁉︎ひぃっ⁉︎」


 俺は未だ走り続ける激痛に声にならない声を出しながら耐え続け、いきなり東の腕が粉々に吹っ飛んだのを見て、訳が分からず混乱しながらも未知なる恐怖から逃れようとずっと後退りをし続けるサヘル。

 痛みに耐え続ける東の脳に聞き覚えのある声が走る。


『アズマくん。君たちを一旦こっちにテレポートさせるから』


 そう言い終わると東とユキナの姿はサヘルの前から消え、血の海や肉片なども全てが消えた。

 サヘルは自分の首の痛みなど忘れ、倒れた兵士たちを見ながらさっきまでの光景が嘘のように思い、気を失った。




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