トドメ、そして奪う
後退して距離を取りつつ小僧はぎこちない動きで左手を右肩に当て、右手を右側の腰後ろにぶら下げている革袋へと手を突っ込む。
「それは許されんなぁ」
しかしその隙を逃さず、モリアが引き離した距離をすぐに詰める。
「チッ」
小僧が咄嗟に空中で身を豪快に捻り、右回し蹴りを放つ。
「ざーんねぇん」
が、それを読んでいたらしく攻めの姿勢でいたモリアがさらに身を低くしてそれを避ける。
盛大に空ぶった蹴りは、モリアの頭上を通過する。
「終わりや」
渾身の一撃を避けられた小僧は隙だらけ。剣もない。
防ぐ術のない小僧の心臓目がけて槍が上る。
「......だったら、良かったな」
「うっ!」
「「「「「「⁉︎」」」」」」
しかしそれが直撃する前に、小僧が突然光を発した。
その眩しさに目を細める。
否、かなり見え難いが小僧が光を発しているのではなく、小僧の背後で何かが強く光っており、それが小僧から溢れ出しているのだ。
私達ですらここまで眩しさを感じるのであれば、目前でそれを直接浴びせられたモリアはまともに物が見えないだろう。
事実その攻撃を受け、身体が傾いて狙いが逸れる。
それでも背中を少し掠ったらしく、血が宙を舞う。
しかしそんな事お構いなしとばかりに着地後再び地を蹴り、モリアの頭を左手で鷲掴み、顔面に膝をぶつける。
「お返し、だ!」
「ぐおおぉっ⁉︎」
さらにぶつけた側の足をモリアの胸の辺りへ当て、勢いよく膝を伸ばす。それと同時に手を離す。
するとお互いに後方へと飛ばされる。
先の膝蹴りを防ぐ事が出来ずモロにもらったモリアの鼻から血が噴き出す。
小僧の方は華麗に着地する。モリアの方も地面を滑り、フラつきながらも立ったまま着地する。
その着地の瞬間、小僧の手から光何かが落ちる。
あれは......雷光核。なるほど、光の源はあれか。
あれに魔力を一気に流し、モリアの視界を奪った。だからあの豪快な回し蹴りだった訳か。
逆にそのお陰で、小僧が盾となったから私は少し目が眩んだ程度で済んだ。
冒険者は魔獣としか戦わないから対人戦では弱いと思っていたが、あの小僧思った以上に対人戦でも戦い慣れているらしい。
それもかなりの実力で。
連戦続きのはずであそこまで戦えるという事は、情報通り銀ランクというのは事実だったか。
それで考えるとウェンベルが駆り出されたのも納得出来る。
「あぐぅ! 見えへん、なんも見えへん」
槍で身体を支え立ち上がったモリアが、もう片方の手で目元を押さえながら辺りをキョロキョロしている。
しばらく奴の視力は戻らないだろう。
「痛ー......加速系は対応が大変な能力だよ。本当に」
視力の利かない間に小僧は逃げるか、一気に攻め殺すかと思ったが、そのどちらでもない。
視えていない相手を見下しておるのか?
そう考えていると今度は小僧の右肩から柔らかい光が起こる。
あんな所に雷光核でも当てて......いや、雷光核で思い出したが、彼奴には五輪核を持っているという情報があったな。
小僧が持つには大層な代物である故、あり得ないと考えて今の今まで忘れていた。
つまりあれは治癒核か。




