足、そして言う通り
「言いましたよね? 変な気は起こさないで下さいっと」
痛みに表情を歪ませながら、冷たく言い放つウェンベルを見上げる。
彼の持つ剣からは血が垂れている。
「サヘル様⁉︎」
奴を下から睨みつけていると、私の周りにいる騎士が驚きの声を上げながら駆け寄って来る。
一人の騎士は屈んで怪我の具合を診始め、他四名は我々の前で武器を構え、ウェンベルの行く手を阻む様に立つ。
「ウェンベル殿! 流石にこれは如何なものかと!」
「......私は事前に忠告はしていました。それを無視したのは貴方方の主人です」
「......それは......しかしいくらなんでも、これはやり過ぎなのではないでしょうか」
「......最悪殺してしまっても構わないと言われていますが、その程度の事で済ませたまでです。だからと言って次も許すとは考えないで下さい。なんなら今からしっかりと足を切り落とされますか? 反抗する気力を失くせるのでしたら、話せる頭だけ残して後は切り落とせば良いのですし」
確かに面倒な抵抗をされるくらいなら、と考えると私も同じ行動をさせる。
今、私を守っている騎士達にウェンベルが殺しにかかって来るという認識があった所で、結果はモリアの時同様の皆殺し。
不意打ちではなく真正面から受けて立っても、勝ち目はない。
部隊長達ではあれば恐らく戦えたであろうが、一端の騎士達では壁にもならん。
本当にエーデンの所には面倒極まる者が集まる。そういう力でも持っておるのかもな。
「......しかし私は約束は守る方です。あの少年の事が気になっている様子ですので、そこでご覧になっていて下さい」
そうウェンベルは私から興味をなくした様に視線を外し、剣の血を振り払い、鞘に納める。
そしてエーデンの騎士達がいる方へと歩みを進める。
「サヘル様。逃げますか?」
彼がサヘル達の元から少し離れた辺りで、傷を診て軽い手当をしていた騎士が問うてくる。
声は少し低めの男の声。しかし張りがあるため聞き取り易い。
「辞めておく。彼奴は先程『次も許すとは考えるな』と言った。もし逃げ出せば、まず間違いなく殺しにかかって来る。それもほんの一瞬で、な」
「我々も居りますので、サヘル様がお逃げになる時間は稼げるかと」
「......貴様、先のウェンベルの一振り。どちらでも良い。見えたか?」
「............いいえ、全く......」
「そういう事だ。彼奴と貴様等では次元が違う。この場は一先ず、彼奴の言う通りにしつつ打開策を考える。貴様等は何もせず、ただ私を守っていれば良い」
「かしこまりました」
騎士は潔く引いて、周りの者にこれからについての説明を始めた。
それを横目に意識を小僧の方へと向ける。
先程よりは互いに傷を負ってはいるが、致命傷と言える様な負荷では負っていない。
剣と槍が打ち合っている音がよく聞こえる。
そういえば小僧の仲間は何処だ? 先程から見えんが......
少し前まで小僧の近くにいたはずの女達が見当たらないため、辺りを見回す。
すると奴らからやや離れた位置で、副部隊長とエーデンの騎士という二つの陣営とやり合っている。
彼方はやはり小僧よりは怪我も疲労もしているが、優勢に見える。
......見え難いが、エーデンのは第三部隊の隊長である“カンナシア・ヴァリオン”か? それとメークインまで居るではないか!
カンナシア。彼女もそれなりの実力者ではあるが、ウェンベルと比べてしまうと、どうしても色褪せてしまう。
第一、第三の隊長が居るのであれば、恐らく第二の隊長も居るのだろう。
そうなるともはや戦争クラスだな。この戦いにそこまでの戦力を割く理由が分からんくなってくる。
確かに面倒な相手ではあるだろうが、小僧を殺すためにだとしてあの女が言い寄った程度で出してくれるような戦力ではない。
もっと何か大きな力が働いた、としか考えられん。
国王......が、他国の一市民のためにここまで動く事はない。
......あ、いや、可能性としてならダンジョン攻略の際に......これはないな。
例え魔道具を手に入れたいから、だとしても。そんな事のために散々手を回し、その間で私も陥れる作戦だったとしても、ここまで大掛かりにする必要はない。
しかし国王クラスの大きな何かが関与しているのは確実。
なんと面倒な......




