役立たず、そして用済み
「さて、あの小僧はどれだけやれるのか。我が軍をどれ程殺れるのか。お前さん、どれ位に幾ら出す?」
「自分の部下を賭けの対象にするな」
「はっはっはっ、変えの利く部下だ。どうでも良い。むしろあの小僧が情報通りで、俺と殺り合えるのならあの程度の兵に遅れをとる事もないだろう」
「それではもう賭けではないでしょ......少しだけやり合った私の考えでは、まあ、全滅でしょうね」
東から少し離れた場所で呑気な会話を繰り返している部隊長達。
そんな彼らの眼前では、騎士から武器を奪い取った東とキリが、固有能力で武器を手にしたユキナとニーナが、体術でサナが、五十八名の騎士を相手にしている。
「サヘル様! 如何しましょう⁈」
小僧らが暴れる中、証言者の一人である男が問うてくる。
「気にするな。こいつらは無害だ」
「しかし!っ──」
「気にするな、っと私は言ったのだ。貴様も、私の言葉に逆らうのか?」
「い、いえ......そういう訳では......」
「ならば黙っていろ」
現状が本当はどういう状況か知らんとはいえ、煩くして良い理由ではない。
それに貴様らに教えるつもりなんぞ毛頭ない。
「おい、法官達をさっさと殺しておけ」
「はっ!」
私の命令を素直に聞き、騎士の一人がその伝令を法官と法生司を捕らえている仲間の元へと向かう。
「......サヘル様、何故エーデル侯爵様の騎士達がサヘル様の命令に従っているのですか?」
先程黙っていろと言ったはずの男は、再度口を開きおった。
「......はぁ......この男を斬り伏せよ。殺しても構わん」
「え」
「え? いや、しかし......」
「殺せと言っているのだ。聞こえなかったのか?」
「......」
「私の命令に従わなければ、まずは貴様、いや貴様の家族から消してしまっても良いのだぞ?」
私の命令に戸惑いを示す騎士。
その反応になる事は分かっていたので、やる気が起こるように促す。
するとその騎士は少しの間黙った後に、証言者の一人に向き直る。
「え.....おい、辞めてくれ! ザヘル様! おお、お許しぐだざい! 改めま、んぎゃああぁぁぁっ⁉︎」
その騎士が本当に殺しにくると悟った奴は、涙を流しながら命乞いを懇願する役立たず。
その甲斐もなく、左肩から袈裟斬りされる。
最期の煩い声を上げ、その場に倒れる。
対して役立たずな男を切った騎士はガクガクと震えている。
「この程度の事で震えるとは、貴様の部隊は全く鍛錬が成っていない様だな。使えん部下を持つ上の者の苦労が貴様に分かるか? まあ、今し方切った男同様、使えん奴は棄てられる運命だという事が解っていないから、成果も出せずにいるのだ」
「くっ」
「なんだ、文句でも言いたいのか? それが言える程貴様は偉いのか? なんとか言ってみてはどうだ?」
「っ! あああぁぁあぁーっ!」
「おい、止めておけ! 誰が相手か分かってるだろ!」
私の言葉に反論出来ず、我慢の限界を迎えて斬りかかろうと剣を上に振り上げた所で、近くにいた別の騎士に止められる。
己の気持ちさえ抑えきれず、とりあえず相手を攻撃しようと考える時点で間違っておる。
全く、少しは私の気分を良くしてくれる成果を上げられんものか......




