世迷言、そして断罪
「抵抗はするな! すればその場で刑を執行する!」
まだ中には入っていない先程の女騎士が此方に向かって告げる。
その言葉は本気であり、逆らえば確実に斬られる。そう全員に思わせるだけの行動を彼女らは示している。
しかしそう分かっていても抗う者もいる。
「貴女方、自分達が何をしているのか理解していますか?」
先に声を上げたのは、法官であった。
静かに告げているその声には、紛れもなく怒気と呆れが含まれている。
そんな彼女の鋭い視線は、女騎士へと向いている。
法に準ずる法官。その中でも一際厳粛に法の下に在る彼女からすれば、こんな愚行でしかない行いは断じて許せないのだろう。
「我々は正義の名の下に罪人リリースティア、並びにアズマ・キリサキとその仲間の死刑を執行する! その行為の妨害は、我々への反逆と見做しその者も断罪とする! 例え公判の最中であったとしても、我々の行いを妨げる事はない!」
女騎士は堂々と宣言する。
それによって彼女の目的は理解出来た。しかし──
「一貴族が正義を名乗った所で、それはただの世迷言です。なんの大義名分にもなり得ません。今すぐこんな事は止めなさい」
法官の言う通りである。
女騎士が言っているのは正義に託けただけの一方的な殺人。それは大貴族であるエーデン侯爵であろうと、王族であろうと許されない。
第一部隊である十七名の騎士が全員を拘束し終えると、女騎士は満を持して法廷の中に入る。
「そんな事は百も承知。しかし! 断罪を我らが主が望まれた! 罪人討たずして、我ら国民に安寧なし!」
言い切った女騎士は、真っ直ぐ小僧の元へと向かう。
「アズマ・キリサキ。貴様を貴族領侵入、貴族暴行、殺人の罪で処刑する」
大人しく拘束されている小僧の頭の真上に女騎士の剣が掲げられる。
「......謂れのない罪で断罪される気はない」
しかしその剣が振り下ろされ、小僧の首に届くよりも先に奴はその場を脱していた。
動きの中で僅かながらに見えたのは、押さえていたはずの騎士が後方へ蹴り飛ばされていた事くらい。
そして剣の軌道から外れた左から素手で女騎士を襲おうとしたが、奴の攻撃が彼女に届く前に小僧とは反対の方へ飛んでいた。
そのまま彼女は小僧から少しだけ距離を取り、剣を中段で構える。ちょうど剣の届く範囲ギリギリで。
「断罪を拒めば、さらに罪が増えます。大人しく、今一度断罪を受けなさい」
「だからそんな罪は知らないと言ってるだろ。それで殺されるなんて御免だ。それでも執行するって言うなら、こちらも抵抗させてもらう」
武器等は法廷へ入る前に没収されているため、小僧らに武器はない。
それでどうやって武装した相手に抵抗するというのか。それにどうやって先の状況から脱したのか。
そんな事を考えさせられる此方としてはとっとと死んでくれた方が色々と楽だったのだが......
本当に面倒な小僧だ。




