看破、そして兆し
一向に答える気配のない茶毛。
「どうなのか答えてくれ。でないと話が進まない」
その様に業を煮やしたのか、小僧が話の進展を促す。
そんな彼奴からの催促によって、より一層と此方を見てくる様になる茶毛。
私はアレがどうなろうとどうでも良い。
しかしこの状況でどう答えるかは楽しみにしている。なので私も早く答えてもらいたいと考えている。
「サヘル様。この状況どうするんですか?このままじゃあ、あの小僧の変な魔道具で“ケミュン”の証言が嘘ってバレてしまいそうですが」
するとへーネルが横から囁く。
ケミュン......?誰だ......話しぶりからして恐らく茶毛の事か?
まあ、アレの名前なんぞどうでも良いがな。
「黙れ。構わず続けさせろ」
そう簡素に伝える。
もはやこの公判に意味などない。勝敗に関わる優劣もだ。
しかしそれを知らぬ茶毛が、どう動くのかを観るのを愉しむ。
それを自身で邪魔をするなどあり得ん。
故にこの男にも変なマネなどされては困る。黙って観ているのが賢明だと親切に伝えてやったのだ。
「......承知、しました」
へーネルも理解したらしく、大人しく引き下がった。
全く。役立たずな庶民には一々教えてやらねばならんのだから、上の身分の者は苦労が絶えん。
テヲロの様に自ら動いてくれると助かる。まあ、あいつも時々言わねばならん時もあるがな。
「あ............私は、最後......しか、見ていません」
彼女がそう答えると、球が美しかった蒼から鮮やかな紅へとなった。
それが何を意味するのかを理解したのは、東とキリ達四人、法生司長、法生司、そして法官だった。
残りの者は理解出来ず、行方を窺っている。
答えた茶毛はもはや涙を浮かべている。
彼女は自身の虚偽の証言が魔道具によって暴かれたのだと思い、上司に不利益が生じたのだと考えたからだ。
しかし──
「紅。つまり今のは嘘である、という事です」
法生司長がその意味を伝えた事で、他の者も先程の返答が嘘であった事を知る。
そのため東達は驚愕の表情を浮かべている。
そう今の彼女の発言が嘘であったという事は、東達には全く有益な情報にはならず。
むしろ不利益が生じる可能性すらある。
しかし当然打開も可能。
「(茶毛の発言が全て嘘であると見抜いて、それを確認出来れば問題なくなる。だが証言者の話に違和感を抱いていたとはいえ、全てが虚偽であると指摘してはいなかった。つまりそこまでしか、まだ気がつけていないという事!)」
これは......図らずして茶毛はファインプレーをしてのけた!
このまま続く様であれば、勝つ兆しすら見えてきた。
はっはっはっ。随分と神に愛されているなぁ、私は。
つまりこれは、このままの流れで進むに違いない。




