事前の理由、そして再度
小僧は言われた通りに、法生司長の元へ真蒼偽紅の球という魔道具を持って行く。
本来は事前に申請し、法官もそれが本物であるかを調べる。
だから今回はその工程を省いて魔道具の使用が認められた、という訳ではない。
特例とはいえ、そこを省く事はない。
この工程を挟むのは、本来事前申請している魔道具とその公判で使用される魔道具が同一であるかを確認しなくてはならないからだ。
そもそも魔道具にもピンからキリまで存在する。本当に使えるか怪しい安物でも、一フラン程。
そして本当に高価であるなら先程の値段に届いても、おかしくないのだ。
それでも用意しようと思えば、複数用意する事が出来る。
つまり公判で申請とは違う魔道具を使用されないようにするためだ。
都合の良い魔道具を作る事は、熟練の鍛治師でも難しい。というか不可能に近いらしい。
そういう訳もあり事前申請が存在する。
「......問題ないようです。それでは此方の魔道具を用いて、被告弁護人の意義の是非を確認して下さい」
法生司長の指示に従い、彼の左隣の法生司が彼の持つ魔道具を受け取りに行く。
基本的に法生司共は公判で使用されてきた魔道具の全般の詳細は理解している。
また中立の存在でもあるため、魔道具を使用する際は、法生司が行う。
とは言っても、本当に稀にではあるが、法生司が中立の立場でない事もある。が、そんな事はまずあり得ないので安心である。
「それでは被告弁護人は、原告証言人に対する質疑を始めて下さい」
そして魔道具を受け取った法生司が、此方の証言者の元へとやって来る。
「それじゃあ、最後に証言した方にもう一度訊きたい」
まずは茶毛からの様子。
小僧の開始の言葉を聞き、法生司は茶毛の前へと歩を進める。
「あんたは最後の瞬間以外は、被告がいつからペンダントを所持していたかを見ていない、という事で間違いない。そうだな?」
強いている様にしか見えんな。
大方、魔道具を使えば勝てると思って、気が強くなっているのだろう。
良いぞ。好きなだけ思い上がると良い。
今しか味わえんその愉悦感に、ドップリと浸っていろ。その後に待ち受けている地獄の事など夢にも思わずにな。
「えっと......それはだから...あの、その............」
詰問にも等しい問いかけになんと返せば良いか分からずしどろもどろになりながら、助けを求める目で此方を何度も見てくる。
しかしそんな願いを叶えてやる気など毛頭ない。
むしろどう足掻くのか見せてもらおう。楽しみである。
当然だが、私が不利になる事はもちろん、愚民共に私の失態を晒してしまえば茶毛自身がどうなるのか。
それが分からぬ程は、愚かではないだろう。
故に、どうしたら良いか分からず助けを求めているのだ。
何せあの小僧が持ち出したのは看破の魔道具。
なので嘘を見破られてしまうのだから先程と同様に答えたとしても、それが嘘である事が即バレる。
つまり詰みの状態なのだ。
グッ、ははははは。数刻前の私であったら、今の茶毛の様に動揺していただろう。
しかし今はそんな状態ではない。余裕がある。
よもや全てが他人事の状態なのだからな。全く、あの女には本当に感謝しなくてはな。




