折れる、そして数
「それが命令ではなく、あくまで感情の吐露だと言うのなら、何故彼は“私の命令を聞け”と言ったのでしょうか?」
「......」
しかし小娘の一言に、今まで端的に答えていたキャメラが黙ってしまった。
本来感情の吐露とはいえ、普通の法生司達に対して不敬を働いた事になる。
不敬程度ならさほど痛手ではないのだが、今の状況でその言葉は此方がかなり不利になる。いや、もうなっている。
「何事もなく、その様な事を公判中に口に出すというのはあり得ないです。そしてそれらの事から繋がりがあると疑いました。魔道具の使用は許されるべきです!」
彼女は違和感を残しながらも、魔道具の使用が許されるように働きかける。
どうにか止める手立てはないものか......
「......」
「............法官側、被告弁護人の異議に対して何か異議はありますか?」
「ありません」
さすがの法の鬼女も、先ほどの小娘の異議に対する反論を見出す事は叶わぬか。
まあ、正しいのだから無理からぬ事だ。
それにしてもいくら交渉案件とはいえ、私も何故あそこまで法生司長を、いやあの女を信じ切っていたのか。
そんなバカな気さえ起こさなければ、今、私は追い込まれていなかっただろう。
それに法生司長も途中までは、私が勝訴へと至れるように動いた様に見えた。
それ自体があの女の筋書きか?
そのためだけにあの小僧を呼び寄せる口実を用意してきた。考えられなくはないが、随分と手の込んだ事をするものだ。
つまりそれだけ私が邪魔だったのだろう。
こんな公判では私自体をどうこうする事は到底出来んが、地位にヒビが入る可能性は大だ。
民衆共の笑いの渦中の中心になるやもしれんな。
それでも問題ない。例えあの女の狙いが、私の不名誉であったとしても元々下民共の声なんぞ聞く気もない。
むしろ其方であるのなら、私としては嬉しい限りである。
そんなどうでも良い話をさせている間に、憎たらしい小僧を処刑出来るのだからな。
あの小僧がどんな魔道具を用意し、此方の証言をどう崩すのかは知らんが、最終的な結果は以前変わりない。
何故なら此方は、二名の騎士団長と八十八名もの騎士の計百名を配置しているのだからな。
どちらの騎士団長も銀ランク相当である魔獣の討伐を達成しておる。
騎士達とて全員でかかれば、ワイバーン一頭を狩れるだけの実力がある。
他国の騎士団なんぞより、私の有する騎士団の方が余程腕が立つ。
ぐっ、ふふふっ。あの女の提案もなかなか役に立つではないか。
大方、騎士を出払わせて、その間に私の屋敷を襲撃し金品か私の弱みに成り得そうな情報を掴もうと企んでおったのだろう。
だが残念ながら私の騎士はこの程度で全てではない。
屋敷には此方で待機させている騎士の五倍はいる!
少しでも少なくしたいと考えて数十名と多めに言ったのだろうが、私をそんじょそこらの下級貴族と一緒にするから失態を犯すのだ!
だから私はいくら公判で負けようと痛くも痒くもないのだ。




