対処方法、そして同伴者
「ご明察の通りです。確かに、一年足らずで銀ランクの冒険者になるなどあり得ない事でしょう。しかし念には念を。それにあの青年は、暴れる事が多い様子なので置いておくのが宜しいかと」
そう彼女は進言する。
暴れる......確かに、この国へ着いて早々問題を起こしている様な奴だ。負けたと分かれば、暴れる可能性は十分にある。
「分かった。そちらの用意はしておこう」
この女の提案に乗るのは癪だが、万が一は考慮せねばならん。
公判では、法廷の内外に法官側が用意した騎士が置かれる。
流石にそこに置く訳にはいかんから、街中に潜ませておくか。暴れた際に直ぐにでも出陣出来る様に、な。
「それで?まさかその案を言うためだけにここに来た、という訳はないだろう。その隣の者は、なんだ?」
ある程度の方針は決まった。
しかしその中で一向に登場する事はなかった、女の隣でずっと黙っている獣人。
「これは紹介が遅れて申し訳ありません。今回の件で、一番活躍する者です」
そう女が促せば、隣の獣人はスッと立ち上がりフードを退ける。
土色の猫、犬耳?...いや、犬でもない。細長い。あれは、馬などの方の耳だな。
犬猫、兎といった獣人の方が多いが、少ないが馬の獣人も当然いる。
その雌か。
「犯人の連行の際に彼女、メークインの力を使います」
「メークインと申します」
メークインと呼ばれた馬の獣人は、深々と頭を下げる。
顔の線は細く、しかし目元は意外とパッチリとしている。
獣人独特の眼光はしっかりと私の姿を捉えており、真っ直ぐ向いている。
その薄蒼色の瞳には普段見る獣人達が宿す、怯えと恐怖、それらから来るこちらの様子を窺っている様な感じはない。
馬の獣人故にヒゲは生えていない。加えて、顔立ちだけなら、普通に整っている方だろう。
「連行はどういう流れで、その女をどう使うつもりだ?」
詳しく聞いておかねば、せっかくあの小僧に罰を与える機会なのだ。
ここまで来たら利用出来る事は、全て利用させてもらう。
そして全て終われば、この女達で稼げるだけ稼ぐ。今のうちになら幾らでも物をくれてやる。
そんな事を企てている間に、女が私の問いについて説明をする。
メークインの固有能力『クイック・ブジェ』。それは彼女が触れたものの移動速度を加速させるもの。
移動を可能とする物体であれば、建造物だろうが生物だろうが任意で加速が可能。
そしてあの小僧の所に居る、港で罪をでっち上げられ奴隷として売られそうになっていた少年。
それを餌とするためにも、色々とやり易くするという点を考慮すると、この国での法で裁いた方が良いため連れて来る。
流れとしては、小僧の所で少年を捕らえ、早馬を用いて港まで休息少な目に移動。
次に、港から船を用いてこちらまで移動。
そして港から再び早馬で公判を行う上民エリアまで連れる。
その移動時間の全てを彼女の固有能力で短縮する。
これが連行の大雑把な流れと獣人女の利用方法だ。




