方法、そしてカームベル
「その話からするとこっちがその闇市場にいたやつを殺したっていう証拠はあるのか?勝手なこと言われて、知らない罪を背負わされる気はない」
「無論あるとも」
彼がこちらの質問に厳かに答えると、視線を男へと走らせる。
その視線に気がついてか被害者の男は、何事もなかったかの様にすっと立ち上がり、いそいそと法官の元へと向かう。
「こちらが提出された物です」
すると法官が、なんの飾り気もない指輪が入った木箱を両手で掲げる。
しかしそれを見せられてもピンと来ない。
「一体それがなんだって言うんだ?」
「これは現場に、見張りの者がその命を懸けて貴様から奪い取った物だ......御陰で、誰が犯人なのか直ぐに判明した訳だが」
「だから、それが俺らの仕業っていう根拠を示せって」
「物を見てもシラを切るか。良かろう、ならばそれが誰の物であるか証明してやろう。やれ」
サヘルの合図と共に法官が、さらに物を取り出す。
今度は何かの液が入った瓶だ。赤紫色の液は、血のようにも見える。
「なんだ、それは」
「これはカームベルという魔獣の体液だ。カームベルは、魔力に敏感であり、その身体から流れ出ている液体で魔力の出所を察知する。また、臆病な性格なため他の魔獣が通った道を避ける術も兼ね備えている。それは魔獣の魔力残滓がその液で感知されているからだ」
「その性質を活かし、この液は、法官が証拠品などに利用している品だ。もう言い逃れはさせないぞ」
へーネルとサヘルがその道具について説明する。
うーん....どういう物なのかは分かった。聞く限りでは恐らく『魔眼』の霧と同じ能力で、カームベルというのがその人の魔力先を辿れるってことなのだろう。
ただ、それでどうこっちを犯人に仕立て上げるつまりだ?
『魔眼』と違い、あれは恐らく大勢が見ることの出来る物だろう。しかし残っているはずもない残滓をどう読み取る気だ?
ましてや時間が経ち過ぎているはず。魔力残滓と『魔眼』で見えている霧がイコールかは分からないが、さすがに一昨日のが見えるのだろうか?
色々と疑問が残る中、カームベルの液が指輪へとかけられる。
ドロリとした液が指輪の箱一杯に溜まり、溢れるかと思われた残りは箱の上で形を持つ。
その見た目は、もはやスライムだ。
「!」
そう思っていると、その液は箱から滑り落ちた。
そして動いたのだ。
地面を這うようにして進むその様は、まさにスライムだ。
そのスライムの様に動くカームベルの液は、少しずつこちらの方へと向かって進んで来る。




