貴族の男、そして罪状
こちらが怪訝に思っていると、門番が入り口を開けた。
「入れ!」
そう言う彼の表情は不服そうである。
訳も分からず通されたのだが、それの理由はすぐに理解出来た。
被告人から見て左、つまり今回被害を受けた貴族がいるその席にその太った身体を置いている男。
「.....」
その貴族の男が不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
その顔を見ているだけで怒りが込み上げてくる。
忘れもしない男の名は“サヘル”。かつてユキナが攫われた際に彼女を奴隷として購入しようとしたこの国の伯爵。
あの時は魔道具が厄介で引くことになったが、またこいつが関係していたとは。
いや、もしかして途中から関わってきた、のか?でないと最初から内容が変わっているのが可笑しい....
恐らく───
そんな怒りの感情と疑惑を抱きながらも中の門番によって被告人から見て右の席に案内された。
騒がしかったためかこちらを見ながら固まっている少女。
「「「「「リリー」」」」」
皆がその少女の名を呼ぶ。
その言葉が決め手となり彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
そんな彼女の姿を見ていると、やはり来て良かったと思う。
「では、これより公判を再開する!」
裁判長らしき真ん中の男性が厳かに宣言する。
あとは勝つだけだな。
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「まずは、法官側。今回の被告人の罪状を述べて下さい」
「はい。被告は、サヘル・トライスチレム・ボワン伯爵の使者、へーネル・トレ氏がサヘル伯爵から預かり受けた頸鉄鎖を道中で窃盗。それに気が付いたへーネル氏が、返却を要求した所、暴行を働いた後に逃走。これが被告人の罪状です!」
そう淡々と述べる男性法官。法官とは、ベガでいう警邏なのだが、検察官も兼ねているらしい。
それにしても罪状を聞く限り、逃走しか合っていないだろ。暴行.....は、俺が起こした時のかもしれないが、きっと違うな!うん。
嘘の報告なのだろう。
「では次に、被告人。法官の罪状に対する相違異議があるのなら述べて下さい」
続いて裁判長がリリーに異議を促す。
「....ボクは、そんな事やってないです」
「具体的に申し上げて下さい」
「盗みなんてやってない!暴力も振るってなんかない!」
「それではそれを証明して下さい。ただしこの場でのみ証明して下さい」
裁判長と法官がこちらを見る。




