買い物、そしてボアアガロン
ポールさんが雇用させたいと言う人たちを雇った翌日。俺たち5人は王都に買い物に来ている。初めの方はローレアさんもいたのだがもうすでにどこかへと消えていた。行く前に集合時間と場所は決めておいたので探す必要はない。
「えっと、あと他に必要な物は?」
「だいたいの生活で必要な物は買ったと思うけど」
「そうだな、あとはそれぞれが欲しい物とかで良いと思うから、これから各自自分の欲しい物を買いに行くことにする?」
「そうね、私も欲しい物あるし」
「それが良いですね」
「そうしましょうか」
「うん」
「それじゃあ昼くらいにはローレアさんにも言っておいた“喫茶店ポアレ”に集合で」
「分かった」
「了解」
「はい」
「うん」
俺は時間まで自由行動となった。さてと、俺も色々買わないとな。
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「で、どうしてこうなった?」
時間を戻すとこうなる。
みんなと別れてから俺は適当な店に入って買い物をして、店を出たら酒場から騒がしい声と野次馬が出来ていたので俺も興味を持って店の入り口近くまで行ってみたら7人くらいのおっさんたちが酒場で騒いでいた。
「おいてめぇ、この俺様にこんな不味い酒を飲ませてただで済むと思うなよ?」
「すす、すいません!お、お代は結構ですので、どうかお許しを」
「ああ‼︎?そんなんで済む訳ねぇーだろ!ここの酒、全部俺様たちが頂いて少ーし遊んだら許してやるよ?ガァーハッハッハッ」
「「「「「「ハハハハハッ」」」」」」
50代くらいのスキンヘッドのおっさんが60代前半くらいの(話の流れからして酒場のマスターだろう)男性が酷く恐れ、青ざめながら男たちを宥めている。しかし男は全く引かないどころか、完全に図に乗っている。その男とその周りで酒を飲んでいる他の仲間たちも下卑た笑いを大声でしている。
「おっとそうだそうだ、テメェ警邏に言っても無駄だぜ?これを見な」
「⁉︎こ、これ...は...」
何だ?スキンヘッドの男が自分の右の手の甲を酒場のマスターに見せるとマスターはさらに青ざめてしまった。男がこちらに振り返ると笑いながら手の甲を見せてきた。
その甲には猪のような入れ墨が刻まれていた。いや、見せられても分からないって。誰かに聞こうと後ろ振り返ってみるとそこにいる野次馬全員が信じられない物と恐ろしい物を見て怯えている表情をしている。
「俺様たちは青のボアアガロンのベアよ」
「ボアアガロン?」
俺はボアアガロンが何かを知らない。
「...くだらない」
「え?」
「ああんっ‼︎⁈」
俺の近くから誰かの声が聞こえたので辺りを見回そうとしたが店の中からさっきの男の大声が聞こえたのでそちらを振り返えるとスキンヘッド男もといベアがこちらへと近付いて来る。何だかん怒っているようだ。
「おい小僧、テメェくだらねえとは言ってくれるな!」
「えっ⁉︎俺っ?」
「他に誰かいるってのか?そんな命知らずはおまえみたいな小僧しかいねぇーんだよ」
いや本当に俺じゃないから。第一、声的に女だっただろうが!っと言いたかったが、事実なので俺も言う。
「くだらねえじゃないか?酒が不味いって言う割に全部よこせとか矛盾も良いところだ。第一、酒が不味いって言うなら自分たちで作れよ」
「「「「....」」」」
俺の言葉に全員が黙って驚いた表情で俺とベアを交互に見ている。
「小僧、人生の厳しさを教えてやる。表へ出ろ!」
「もう出てるっつうの」
「この小僧」
男はさらに怒る。酒で赤くなっていた顔が怒りでさらに赤くなった。
男が店から出ると出来ていた野次馬たちが道を開けた。男は路地の真ん中くらいまで行ったので俺はそこから反対の方に3メートルくらい距離をとって離れた。
「へ、特別にその貧相な武器でも使って良いぜ?ま、テメェみたいな小僧にある訳ねぇーと思うが固有能力も使って良いぜ?」
「あーはいはい、分かったから早くしてくれ。時間がないんだよ」
「ちっ、この小僧が!」
何も考えずに走って来る。遅い。
右ストレートで殴って来たのを俺は普通に避ける。
「このっ」
「ん」
次々と繰り出されるラッシュを避けたり受け流したりする。その度にベアが怒っては暴言を吐いてくる。
「このごみが、逃げてばっかいないで戦え!それとも逃げるだけで戦うことは出来ないのか?」
「さっきからうるさいな!...ん?やべ⁉︎時間もう超えてる⁉︎急がないと」
上を見ると太陽が真上まで来ていた。
「逃す訳ねぇーだろっ、がっ!」
「あー、うるさいんだよっ」
「おえっ‼︎⁉︎」
溝うちに多少強めに突いてベアを黙らせる。というかさっきまで食べていたであろ物を吐いてしまった。汚い。
「「「「な⁉︎...嘘だろ」」」」
「はい終わり。じゃあな」
「っと、行かせる訳ないだろ?」
帰ろうとしたらさっき酒場で酒を飲んでいたベアの仲間たち6人が俺の前に現れて俺の行くてを阻んできた。もう、急いでるのに。
「ベアを倒すとはなかなかやるな?小僧。だが、俺たちボアアガロンは集団で戦うからな。覚悟しろよ?」
「どうしてこうなった?」
もう疲れた。
「分かったから早くこい」
「この小僧が!」
「このっ」
「おらっ」
「ん...ん、ふっ!」
「「ぐふっ⁉︎」」
「っよ...ん...はい」
「「「がっ⁉︎」」」
殴りかかって来たバーコード頭と髭面の攻撃を避けて、2人の腹に強めで殴った。今度は俺の方から残った3人に攻撃をしに行く。1人は肩を斜めから、そしてその男を軸に回転して、もう1人には顔面に蹴りを、残った1人の後ろに着地して横に腕を振ってうなじを、それぞれ強めに攻撃する。レベルの差がある気がするのでそれなりの手加減はしている。
「馬鹿な⁉︎こんな小僧に俺らボアアガロンが」
「知るか。あんたらが弱いだけだろう?じゃあな」
「くっ...おまえのことは絶対に忘れんから、なっ⁉︎」
うるさいので溝うちを突いて黙らせた。俺は走って約束の場所へと向かう。
「アズマさん遅いですね?」
「迷ったのかしら?」
「それは...ありそうね」
「アズマってどこか抜けているところがあるからね」
「そうね」
「そうですね」
「うん、ある」
東が酒場で騒ぎを起こしていた男たちに絡まれている時だった。東の知らないところで4人の少女たちが東のことを話していた。
それから10分ほどして。
「あー、やっと来た」
「ごめん遅れて」
「何してたの?」
「酒場で酔ってたおっさんたちに絡まれてた」
「何やってんのよ」
「ごめん、ごめん」
「まあ良いわ、とりあえず入りましょう」
「そうだね」
「あの、旦那様?」
「うん?」
俺たちは喫茶店へ入ろうとしたところで聞き覚えのある声に呼ばれたのでその声の方を振り返るとローレアさんがこちらへと走って来ていた。その後ろには2台に大量の食べ物を積んだ馬車が止まっていた。もしかしてあれに乗ってたの?
「すみません旦那様、食料を買い過ぎてしまいまして、今晩の仕込みもあるので私をゲートであちらへ行かせていただきませんか?」
「別に構わないけど、あの馬車って借り物じゃないの?」
「ご安心ください。あれは私の馬車ですので」
「⁉︎あれローレアさんのなの?」
「と言うよりポール様がこの近くにあるポール様の家で知り合いに預けている所有している馬車でございますが、昨夜ポール様が使っても良いと言われたので」
「ポールさん、馬車まで持ってるのかよ」
「それでよろしいでしょうか?」
「いいけど、ここは人目があるから食材は俺が持って行くからローレアさんはその知り合いの馬車を教えてくれる?」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
俺は馬車に積まれている食料を宝物庫に入れ喫茶店裏へ入り、ゲートでローレアさんを家へと送り俺も行って食料を食料庫に置いて再びゲートを潜って戻って来た。
「馬車はどうする気なの?」
「ここに置かせてもらえないかな?」
「無理だと思いますよ。ここの道馬車2台も通れるほど大きくありませんから、もし馬車が来てしまったら」
「うーん、どうしよう」
「あのどうかされましたか?」
後ろの方から声がしたので振り返ると18歳くらいの茶色の髪をポニーテールにして私服にエプロンをした女性が不思議そうな表情をしている。この店の人かな?
「それが馬車で来たんですが馬車を置く宛がなくて」
「それでしたらうちの店の裏に馬を置く場所があるのでそこを使ってください」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「あり、がとう」
この人が優しい人で助かった。ていうかあの広さはそういうためだったのかな。この人に案内されて馬車を移動させようと思ったのだが、日本で騎馬なんてしたことがなかったので乗り方が分からなかった。するとキリがやってくれると言うのでそれに甘えた。
話を聞くと4人とも馬を操れるそうだ。小さい頃からそう言うのを習うそうだ。習っていないのを不思議に思われたので不器用だったので身に付かなかったと誤魔化した。
そして馬を置かせてもらい、俺たちは喫茶店へと入る。するとニーナが質問をしてきた。
「そう言えばアズマさん、その絡んできた相手はどうしたんですか?」
「ん?かかって来いって言って来たのに自分から攻撃して来たから寝てもらった。もちろんちゃんと全員手加減はしたからね?」
「「「「....」」」」
俺の答えに全員が呆れた表情のまま黙ってしまった。どうしたの?
「はぁー...なんかもう今さらだけどアズマには呆れるわ」
「「「うん、うん」」」
「何で全員頷くんだよ!」
「だってアズマは私たちとステータスが違い過ぎるんだもの」
「「「うん、うん」」」
先日サナにステータスを見せてと言われたので、紙に書いて4人に見せると全員が驚いた。
どうやら俺の攻撃力や防御力は獣人族を、魔力量はエルフや妖精族などを遥かに超えており、嘘じゃないかと疑われた。その時は少し傷ついた。
「そんなことより、注文しよう!な⁈」
「そうね、お腹も空いたし」
「お腹空、いた」
「私これ食べたいな」
「もうお姉ちゃん、静かにしないと他の人に迷惑でしょ」
「えへへ、ごめん」
俺の逃げに何とか乗ってもらえたので、俺に向けられていた重たい空気が晴れた。お品書きを見て料理を決め、注文をするとさっきの女性が店の奥から出て来て注文を取って去って行った。
食事を終えて俺たちは馬車を受け取り店員さんに御礼を言って、ローレアさんから教えてもらったポールさんの知り合いのところへ再び馬を届けに行った。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらもポールの主人に会えて光栄ですので、どうかお気になさらず」
そう優しい声で言ってくれた男性、ヴァインさん。白髪にたくましい白髭を生やしたポールさんと同じくらい、いやポールさんより若いかもしれない。
「それじゃあ、俺たちは」
「はい、ポールによろしく願います」
ヴァイスさんと別れて少し歩いてから路地裏へと入って行く。そして家までゲートを繋げて潜る。
「「「「「ただいまー」」」」」
「「お帰りなさいませ」」
ゲートを抜けるとメイドのマリアさんとスピカさんたちが掃除をしていた手を止めて俺たちの方へと振り返り一礼をしながら出迎えてくれた。
突然現れた俺たちにマリアさんは多少驚いた表情をしたのだが、スピカさんは無表情のままだ。
さて、これからが大変だぞ。
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「ふー、疲れたー」
王都で買って来た家具や食器などをみんなで協力して運んだ。みんなでこの角度が良いとかこれはここだとか、さらにはあれがない、これがないと言っては俺が買い出しに行かされた。
そして約3時間かかって、今ようやく終わった。俺は疲れたのでソファに倒れるようにもたれかかる。
あーこのソファ、相変わらず良い座り心地だ。
「どうぞ」
「ありがとう」
するとマリアさんが紅茶をカップに注いで出してくれた。他の人もそれぞれソファに座ってお茶を飲んで休んでいる。
と言っても、雇った全員も協力してくれたのだがメイドの人たちは仕事だと言って働き始めたし、ポールさんも警備のブルースさんとロベルトさんも、夫婦のローレアさんとガゼルさんも各自自分の持ち場へと戻って行き、今ソファで休んでいるのは俺たち5人だけである。
俺は皿に並べられているクッキーのようなお菓子、確か名前はムコスだったかな?に手を伸ばして頬張る。ちなみにお菓子と言っても全然甘くない。昔初めてクッキーを作った時に砂糖を入れ忘れて焼いてしまったのだが、その時と同じだ。
この後特にやることもなく夕食を終えてお風呂に入って就寝である。お風呂の水は元から引かれているそうだ。あとは時代劇で良く見る釜でお湯をたくのだそうだ。もう夏に入っているけれどお風呂で汗を流すとスッキリするので、俺はお風呂がすきである。
寝る時にユキナが先に俺の布団の上で寝息を立てながら寝ていたので、彼女の下にゲートを開いて彼女の部屋のベッドへと転移させる。もちろん起こさないようにほぼ振動が起こらない高さにゲートを開いた。




