話し合い、そして疑惑
ゲートを潜ると家の食卓に出る。ちょうどそこを通りかかっていたメイド長のマリアさんが一礼をして、キッチンの方へと向かって行った。
彼女らには行ってすぐに戻ってきた時だけは、挨拶をしないで良いと言ってある。
だいたいは何かを取りに戻ってきているだけなので、わざわざその度に挨拶をするのも疲れると思ってなしにしたが、その代わり一礼が義務となった様だ。
そんな彼女は、恐らくお茶の用意をしに向かったのだろう。
全員が椅子に座る。
「皆も知っていると思うが、明日の朝方にリリーの公開判決が実施されるらしい」
空気が少し重くなったのを感じた。
「しかしこれは早過ぎると思う」
加えて、先ほど考えたことも伝える。
「ですね。私もそう思います。それと恐らくですが、連行するための馬や船なんかも事前に準備していたと思います」
「なるほど....確かにその方がさらに早くなるか」
「はい」
「そ、の人、魔りょ、く多いかっ、たん、だね」
「確かにそうね。能力で長距離の移動を短時間にしたのなら.....馬と船、馬はリリーと警邏で四頭ほどで、船の大きさを小さくしても持続させるための魔力はかなり必要よね」
そうだよな。その加速系の能力でよほどの速度に上げられるか、そこそこの速さだからほぼ休みなしで移動したかの二択。
後者だった場合は、それこそ相当の魔力量と、忍耐だな。
付き合わさせられたリリーも苦労しただろう....
「その能力者の力によってリリーは明日公開判決になった訳だ。そしてそれをあの街の人は、全員知っている」
「その話なんだけど、どうも七日前に報道されたらしいわ」
「七日前に、報道...?」
「そう言ってたのよね?ニーナ」
「うん。街の人曰く“大貴族の遣いを狙って行われた窃盗の犯人が捕らえられた。その者の判決は、十日後に行われる”との事です」
「十日後?判決は明日の朝方じゃないのか?」
「街の人達もその事を不思議に思っていたそうですが、ただ“予定よりも早く着いた”くらいにしか考えていないようです」
報道した時はあと十日で着くと考えていたが、実際は七日で済んだ。
確かに天気や波の様子で進行速度は変化するだろう。そこは分かるが、ならなぜすぐにでも判決を行おうとしているんだ?
国民にわざわざ十日後と知らせておいて、三日早くついたから明日行うと急に変更した。
そもそも加速系の能力者を使ってまでなぜ彼女に早く判決を下そうとするんだ?
今の話からしてリリーの罪状は窃盗。それも大貴族の遣いから。
あの時彼女を追いかけていたやつ、加えてその男を追って行った先にいた仲間も恰好からして、言ってはなんだが貴族の遣いとは思えないほど見窄らしかった。
そういう偽装だった可能性もない訳ではない。
例えあいつらが本当にその貴族の遣いだったとして、すぐに判決へ持ち込む理由は一体....




