怒鳴る、そして被害の報告
怪我を治したクーラさんに近づいたモアちゃんが、他に怪我をしていないか確かめ始める。
それをするのは正しいことなのだが、出来れば先に見分けてくれると嬉しいな。
しかしそんなことを言えるはずもないので静かに見守る。
「とりあえず大きな怪我はしてないみたい。擦り傷くらいなら村に戻れば薬もあるし、何よりみんな無事で良かった」
そう安堵の息を吐き、怪我の確認と見分けを終えたモアちゃん。
最初こそクーラさんを心配し続けてはいたが、容体を診る眼は確かなようで俺が何をしたのかもすぐに見破ってみせた。
「お疲れ様。それにしても良い腕してるな。あの香といい診断といい、それだけの腕があるんだったら王都とかで薬師でもやれば十分に暮らしていけるんじゃないか?」
「!」
「なんだったら色々と面倒なことは俺の方で処理しておくし、働いてみる気は───」
「勝手な事言わないでっ!」
少女の怒鳴り声が静かなコロッセオで少しだけ木霊する。天井に穴がなければ反響していたかもしれない。
「王都で薬師...?冗談じゃない!する訳ない!あんな!あんな所っ!!───なんであんな所で.....」
彼女の肩が上下する。荒い息遣いが耳に届く。
「......」
「...終わったから戻りましょう。クーラ兄達の治療もあるし」
「ああ」
彼女の言葉に、俺は短い返事しか答えられなかった。
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モアちゃんたちを村まで送り届け、彼のことは全部村の人たちに任せて俺はエネリアに向かう。
いつものように路地裏から出てギルドへと向かう。
見知った顔の受け付けの人にハドルフで起こったことを伝えた。
本来なら警邏に直接出向いた方が良いのだが、生憎と知り合いがいない。
子どもの言うことを聞いてくれない大人には結構会ってきたため、申し訳ないがそういう訳で今はそちらに頼めない。
なのでギルドから警邏に繋いでもらおうと考えている。
以前から色々と話をしてあったエネリアことだったためその話について別室で詳しく話、それに伴って例の娼館の話もする。
それを聞いた職員の人が別の人たちを遣って調査やその娼館などについての作業を始めてくれた。
それとは別の問題がサキュバスだった。
俺は知らなかったが、この世界ではサキュバスは伝説上の存在らしく、そのためなかなか信用してもらえなかった。
例え信用して調査しようにも「まず、どうしたら?」となってしまう。
なのでサキュバスについて彼女の言動などから推測出来ることと俺が知っているサキュバスについてのわずかな知識を混ぜて、とりあえず探査員には女性を遣うこととなった。
他にも色々と話をし、一ヶ月くらいすれば調査が終わるとのこと。
村を襲った者たちは、今警邏へ報告をしに行っている者がいるそうなので少なくとも八日はかかるかもしれないとのこと。
それでは遅いのでこちらに連れてきている程で話した。今、馬車を使ってこちらに運んでいる途中なのであと一日くらいで届けられるという設定だ。
もうこの際、多少強引になっても話を押し通す。
そうして報告を終えて、ギルドから出る頃には夕暮れ時だった。
「さて......最後の準備に行くか」
そう独り言を呟いて、路地裏へと向かう。




