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激臭のステンチスライム、そしてお説教


「さてと、魔獣も倒したしそろそろ帰るか?」


 とりあえずカレメローンの鱗を全部剥ぎ取り、それをサナとニーナに半分分けて、残りを宝物庫に入れた。俺の宝物庫を見たサナたちが、流石にこの量はかさばるのでと一時的に俺が預かることになった。

 そしてカレメローンの肉も宝物庫に入れてからみんなに出発するかを聞く。


「そうね、そろそろ帰り、うっ⁉︎」

「うっ⁉︎」

「おえっ⁉︎」

「いっ⁉︎」

「んっ⁉︎」


 サナが賛成してさぁ、出発ーというところで俺たちの鼻を強烈な匂いが襲った。あれだ、牛乳を拭いた雑巾を1週間放置してさらにそこに生ごみを置いたような強烈な匂いだ。


「何この匂い⁈」

「臭、い」


 俺は急いで宝物庫から風尚核を取り出す。そして慌てながらも流す魔力の量は慎重に流す。

 すると風尚核から強めの風が吹き出し、周りに充満していた匂いが風によって散っていく。念のため風尚核を数個宝物庫から出して全てに少しの魔力を流してからみんなの周りの地面に円になるように置いていく。風のバリアを作ったのだ。

 俺の持っている方の風尚核に魔力を流すのをやめる。


「あ、ありがとう東」

「「「ありが、とう」」」

「ああ、風尚核があって助かった」


 多分これ、1番キツかったのってサナとニーナじゃないのか?獣人だから鼻も効きそうだしさ。


「でも、今の、匂いって、なんなんだ、ろう?」

「も、もしかしてあれも、ま、街の噂に?」

「いや、そんな噂は誰も言っていなかったから、多分違うと思う」

「そ、そうですか」

「アズマ、魔眼で探して来てよ?」

「えっ⁉︎」


 気付けば女性陣全員がキラキラした目で俺を見ている。


「君ら臭いからここから出たくないだけでしょ?」

「「「「......」」」」

「図星かい!」


 俺の指摘に全員が下を俯いてだんまりである。いや行くのは別に良いんだよ?多分俺1人でもだいたいの魔獣は倒せると思うし。でもさ、その後何も言わないでよ!多分身体中に臭いが映ると思うけど、絶対何も言わないでよ⁈

 という訳で俺が1人で行くことになった。最後に全員から頑張ってねっと言われた。

 こうなったらやってやんよ!


______________

 

「と、強く出て来たものの、この臭いはやっぱりキツい」


 みんなと別れて少し離れたところで俺は歩きながら愚痴っていた。この臭いの発信源は魔眼を使えばすぐに分かる。現に今そうしている。この薄い紫色の霧を辿(たど)りながらボワッと生えて俺の膝くらいまで伸びている草を掻き分けながら進んでいる。

 道中魔獣にも出会うと思いながら進んでいるが今のところ一向に出会わない。ありがたいことではあるのだが、逆にそれが不安な気持ちを強くする。


「お、霧の色が強くなった。そろそろだな」


 魔眼で臭いの発信源を探す時はその発信源に近付くに連れて霧の色が濃くなる。


「にしても、先に進むに連れてなんかジメジメしてきたな」


 さっきから梅雨のようなジメジメとした空気が漂い始めている。それに地面も少し泥濘(ぬかる)んで柔らかくなってきている。これもこの臭いを出している魔獣のせいなのか?

 などと思っていると、森を抜けて広めの湖に出た。


「うん、出たわ良いんだけどさ。何この色?」


 湖の色は最早水の色ではなく、紫色になっていた。すっごい、禍々しい色である。

 よく見るとそこら辺に魚の死体(骨だけ)がいくつも浮かんでいるし、周りの草木も変色していたり、枯れていたりしている。そんな湖の全体から紫色の霧が出ている。


「こんな湖、絶対入りたくないな」


 今回ばかりはどうしようもないのでとっとと倒してしまうことにする。

 宝物庫から雷光核を取り出す。そして雷光核を湖の方に向けて魔力を流す。雷光核は魔力の量ではなく、使用者の意思によって光る石にもなるし電気などを起こす石にもなる。今回は電気の方だ。

 軽めに魔力を流すと雷光核をが光、電気が湖に向かって走る。多分俺の魔力量なら家10軒くらいの電気なら3年は流していられると思う。それの1割にも満たないくらいを今湖に向かって流しているのだ。湖からは光が輝いているようにしか見えない。

 1分くらいしてから魔力を流すのをやめた。しかし、湖の水面には何の死体も浮いてこない。


「⁉︎」


 電気を放つのをやめてから1分も経っていないだろう。それは動いた。

 俺の眼前では紫色の水だと思っていた物が水面を()うようにして真ん中へと集まって行き、どんどん大きくなっていく。やがて湖の水面に浮いていた紫色の何かが1つの大きな(かたまり)となった。

 途中から沈み始めて、今はお風呂に浸かっているみたいになっている。大きさはだいたい3メートルくらいかな。型などはスライムに似ている。しかし核が見当たらない。

 眼に魔力を流して魔眼を発動させる。


 ______________

 ステンチスライム:戦闘準備

 Lv.51

 特殊:身体から植物を劣化させる悪臭を発生させる。核が3つある

 ______________


 ステンチって確か悪臭って意味だったような?てことは悪臭スライムってことか。特殊にもある通り、こいつがこの嫌な臭いの犯人である。

 でも、核が3つあるって書いてあるけど、見えないよ?

 魔眼を閉じずに千里眼も使って、あいつの身体の中を覗く。


「...ん?もしかしてこれか?」


 魔眼のおかげなのか紫色の身体であってもこれだけ周りと色が少し違うのが確認出来た。周りのは紫色なのに対してここだけ少し赤色が混ざっている。多分これであっていると思う。

 俺は剣を構えて攻撃体勢へと移す。

 

「よっ」


 地面を蹴って2メートルくらいのところにある核の高さまで飛んで剣先をステンチスライムに向けたまま剣を横に持ってくる。


「はい、1つ目っ!」


 そう言って剣を前に突き出す。

 グチョッ


「あれ?」


 剣先がステンチスライムの表面に剣の半分くらいが刺さった程度で止まってしまった。にも関わらず剣の刃は核には全く届いていない。厚いな。

 グニョ

 剣をスライムから抜いて地面に着地する。そしてすぐに距離をとる。

 うーん、多分剣が全部刺さったところで核には全く届かないな。しょうがない、凍らせるしかないな。

 でも、


「触りたくないなー」


 この魔獣、とにかく臭い!そんなのを触るなんてごめんだ。

 ...あー、あるわ。この魔獣に直接触らなくても凍らせることだけは出来る方法があるわ。

雷光核を使えたら良いのだが、さっき使って効かなかったってことは、こいつに電撃は効かない。

 宝物庫から破片の中でも1番小さい水儒核を取り出す。

 ずっと発動させるている魔眼の魔力の半分くらいを水儒核の方へと流す。

 ドバァァァァァッ!

 水道の蛇口の栓を思いっきり回したみたいに勢い良く水が出て来たので慌てて魔力を減らす。どうやら魔眼に使っていた魔力の量は水儒核だとこれだけ水を出す量のようだ。いつもは魔力の減りが全くないので全然気にしていなかった。

 水の量を減らして準備完了だ。さっきよりも少し強めに地面を蹴ってステンチスライムを超えて、ステンチスライムの頭上まで飛ぶ。


「ウォーミル」


 ドバァァァァァッ!

 ウォーミルを発動させるために右手に流した魔力が微量だが水儒核にも流れたようで再び水が大量に出てしまった。が、右手で直接触れている水がウォーミルによってどんどん凍っていく。そしてその水を真上から浴びているステンチスライムも身体ごと凍り始めた。水儒核から手を離して頭部分だけ凍っているステンチスライムを足場に元の位置へと戻る。

 全身が完全に凍るまでに30秒もかからなかった。以前までのウォーミルよりも明らかに凍らせるスピードが速い。

 凍らせたおかげなのかさっきまで匂っていた臭いがだいぶ減った気がする。


「これはこれで使えそうだからとっておくかな」


 ゲートをステンチスライムの下に開いて落とす。そしてそのゲートを俺の頭上100メートルに開く。宝物庫の紐を解いて上に掲げる。

 ステンチスライムは落下の威力のまま宝物庫へと入った。


「これで良し」


 もう(くさ)(にお)いも完全に消えた。

 服の臭いが気になったので宝物庫からソシャルで買っておいた洗剤のような物とたらいと水儒核と風尚核を取り出す。

 服を脱いでたらいの中に水儒核で溜めた水に浸す。


「さて洗濯だ」


 洗濯は家でよくやっていたがそれはあくまで洗濯機で、だ。この洗い方は初めてなので上手く洗濯出来るかが心配である。

 .....

 数分洗剤で(こす)っては(ゆす)ぐを繰り返して、ようやく服に付いていた臭いが落ちた。

 次に宝物庫からダンジョンの時に使っていたスケルトンの骨に弓の糸を巻き付けたやつを取り出して糸に服を通して骨を木に刺した。

 最後に風尚核に魔力を流して風を起こして服を乾かす。

 (くさ)(にお)いを発していた魔獣も倒し、洗濯も終わったのでみんなのところへと戻っている。湖があったのはバリアを張ったところから多分東へ真っ直ぐ行ったところにあったので、帰りは真っ直ぐ歩いていれば帰れる。


「あの魔獣が作物に害を及ばした元凶だと思うから、これで依頼は終了だな。違ったらまた来なくちゃいけないけど」


 と、そんなことを言っていると風が少し吹き始めて来た。風尚核のバリアが近いのだろう。


「あれ?」


 さらに進んで行くと弱々しい風が吹いて砂埃や落ち葉などを吸い上げている。風尚核に溜めていた魔力が少なくなっているのだろう。しかし問題はそこではない。問題なのはこの風のバリアの中にいるであろう4人の姿がないことである。


「どこへ行ったんだ?」


 4人ともそんなに弱くはないから魔獣にやられることや山賊などに連れ去られることはないと思う。だからこそ、どこへ行ったのかが心配なのである。

 魔眼へ流している魔力を強くして霧が見えるまで強くする。...見えた!

 草木の葉などに付いた彼女たちのそれぞれの色の霧が俺たちが最初にここへ来た時に通った道とも今俺が通って来た道とも違う方に付いている。だいたいで言うなら、俺が今東の方向から戻って来たとするなら俺たちが入ったのは南から、そしてみんなの霧が発しているのは西からだ。

 俺は急いで走って草木の葉に付いた霧を頼りに走る。草木を掻き分けて進んで行くと声が聞こえてきた。


「いや、ユキナ、やめて!」

「それ、それ」

「お姉ちゃん。や、やめて!」

「ニーナ、覚悟ー!」


 俺は目の前に垂れている木の枝を退かすと太陽の光が差し込んだ。


「みんな、大丈...ぶ?」

「「「「え⁈」」」」

「あ...れ...」


 目の前には太陽の光が差して清らかな川がさらにキラキラ光っている。その川の中で川の綺麗さに負けない美少女4人が全裸で水浴び、水を掛け合っている。

 そして、一瞬の出来事にここにいる全員に少しの沈黙が生じた。


「「「「キャァァァァア‼︎⁉︎」」」」

「うわぁー‼︎ご、ごめんなさーい!」

「「「「(アズマ)のバカー!」」」」

「ちょっ⁉︎」


 可憐な悲鳴と罵声と共に、サナは腕で上を隠しながら後ろ回し蹴りで近くにあった結構大きい岩を砕いて、キリも上を隠しながらしゃがんで川の石を何個も、ユキナは左腕で上を隠しながらどこに隠していたのか忍者が使っていたクナイのような物を右手で、ニーナはその場にしゃがんで上を隠しながらカレメローンの時に見た固有能力の水の槍のような物、全部が俺目掛けて飛んで来た。

 とりあえず上に勢い良く飛んでそれらを回避するが、何故かユキナのクナイだけが俺の方へ飛んで来る。剣を抜いて叩き落してそれを避ける。

 俺は地面に着地した。


「ぐふっ⁉︎」


 と、同時に身体に物凄い衝撃が襲った。そのまま飛ばされて後ろにあった木に勢い良くぶつかった。


「(やばい、(混乱して)気を抜いてたから...い、意識が...)」


 薄れ行く意識の中見たのは、赤面の顔をしたサナの姿だった。


______________


 俺が意識を戻すと、もうすぐで陽が暮れそうなのでサナたちの家の前にゲートを開き港街へと戻った。その間全員が無言だったのであれは俺の夢だったのでは?と思っていた。服も着ているし。

 しかし俺がベガへ帰るためにゲートを開こうとしたらサナが、


「ちょっと話があるんだけど」


 と、全く笑っていない笑いを浮かべながら俺を呼び止めた。キリたちの方を見たが女性陣全員がその笑みを浮かべていた。俺は少し寒気を感じながら、サナたちの家へと招かれた。

 サナ、ニーナは自分たちの部屋へ服を着替えに行き、キリとユキナも着替えたいと言うのでゲートを甘味の2階の廊下に開いた。俺も潜ろうとしたら、


「東は、ここにいて」


 と言われ、1人人の家の廊下に置いてけぼりをされた。少ししてサナとニーナが部屋から出てくると、ほぼ同時にキリとユキナも部屋から出てゲートを潜ってこちらへと戻って来た。

 そしてサナたちの父親が寝ていた部屋へ入ると、後ろの扉がゆっくりと閉まった。後ろを振り返るとニーナがあの笑みを浮かべながら扉に寄りかかっている。


「ねぇ、アズマ」


 キリに呼ばれて正面へ向き直ると夕暮れの光が横の窓から差し込みキリ、ユキナ、サナを照らしている。その姿はまるで般若のようだ。


「そこに正座して」

「...え?」


 正座しろと言われたことにも驚いたが、それよりもこっちの世界にも正座があったころに驚いているのだ。


「えっと、今何て?」

「正座して」


 優しく微笑みながら言っているはずなのにどことなく不吉なものを感じる。俺はとりあえず言われた通りに正座する。こっちでもこれであってるよね?

 ニーナが後ろからゆっくりと前へと歩いて来た。


「さて、アズマさん」

「...はい」

「何で座らされたか、分かりますか?」

「い、いえ」


 いつもはおどおどしているニーナだが、今だけは怯えておらず、何か異様なものを感じる。


「それでは教えてあげます」


 そこからお説教が始まった。しかも4人からである。お説教の内容は川を覗いたことであった。どうやら夢ではなかったようだ。


「確かに私たちも注意が(おろそ)かだったけど、アズマももうちょっと気を付けてくれれば!」

「水の音がしたんだから、少しは察してよ!」

「私も、順序を守っ、て欲しい」

「ゆ、ユキナさん!そ、それは、あの」

「......」


 俺は彼女たちのお説教をずっと(うつむ)いて聞くことしか出来ない。グゥの音も出ないからである。

 コン、コン

 こんな感じのお説教がどのくらい続いたのかは分からないが、後ろから扉を叩く音が響いた。


「サナ、ニーナ、その辺にしておいてあげなさい」


 おお、神だ!ありがとうディグリーさん!


「「お父さんは黙ってて」」

「はい、すいませんでした」


 おおい⁉︎ディグリーさーーん‼︎

 娘2人のシンクロの答えにディグリーさんは声を小さくして去って行ってしまった。

 それからさらにお説教は続き、俺の脚が限界になってきた時にようやく解放された。外はもう陽が完全に暮れている。多分1、2時間はお説教を喰らっていたと思う。


「さて、呼び止めておいてなんだけどご飯にしない?お父さんもお腹空かせていると思うし」

「私たちもご一緒して良いの?」

「もちろん、私たちが呼び止めたんだもの」

「それじゃあ、ありがたく。東も良いわよね?」

「あ、ああ。お世話になるよ」


 俺は脚の痛みに耐えながら何とか答える。俺もお腹が空いているがそれよりも脚の痛みの方が1番辛い。治癒核で治らないかな?



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