行方、そして複数の霧
ゲートを使って、再び娼館の地下へと向かう。
しかしそこにキリたちの姿はなかった。
「まさか、残党がいたのか?でも、キリたちならそんじょそこらの相手に負けるとも思えないけど......」
上を見れば、先ほどまで集まっていた人たちはどこかへ行ったようで、代わりに同じデザインの服を着た人たちが数人ほどが忙しそうに走り回っている。
その人たちは地下にも七名ほどいるのだが、忙しいためか俺に気がついていない。
彼らは氷で覆われているこの場で、少々厚着をしながら氷を砕く作業をする者と何か報告し合っている者と分かれているが、作業している者の方が多い。
そんな彼らを横目に『魔眼』にさらに魔力を流す。
空中に漂っているキリたちの霧が見えるようになるまで、流す。
さほど薄くない.....ってことは彼女らが移動してからあまり時間は経っていないということだ。
何かあったのかもしれないな。捕まっている人たちには悪いが、もう少し待ってもらおう。
そう少々の罪悪感を振り払って、霧を辿る。
三人とも同じ方向.....っと思いきや別れたな。
石段を駆け上がって行くと途中と娼館で分かれている。
キリが娼館方向でサナとニーナが途中の階の奥へと向かったようだ。
どっちに行くべきか......
ここは効率無視だ。キリと合流しよう。
サナたちが向かった方には複数の霧がかなり薄くだが漂っている。恐らく人質はあっちなのだろう。
その中にまだ新しい霧があったが.....大丈夫だと信じよう。
それにキリが向かった方にもいくつか新しいのが漂っている。
実力どうこうよりも数の差がある。念のためこっちを先にしよう。
「───っ!」
そう判断してさらに石段を駆け上がって行こうとしたが、視界が暗く狭まる。
くっ、魔力を使い過ぎたか......
まだ全然回復していないというのに魔力を使い過ぎて、再び体調を崩し始めたのだ。
ゲートや霧を辿るために使用している『魔眼』。正常な状態ならば問題ないが、今のように魔力がかなり減っている状態では、短時間でも限界が早い。
一度『魔眼』に流す魔力を抑える。
ゼロにしてしまうとこの薄明かりしかないであろう地下階段では、何かが接近してきた時に対処が遅れる。
故に常時使用は変わらない。
「はぁ...はぁ....はぁ....無事でいてくれよ」
まだ苦しい身体に鞭打って、階段を駆ける。
「!」
すると地下階段途中で人が倒れている場所に着いた。
その倒れている人は先ほど下で作業していた人たちと同じ服装をしている。
違う点で言えば、こちらは武装している。
両手に五センチほどの尖った突起物のあるメリケンサックを着けている。
切られたような痕はないな。それ所か争った痕もほとんどない。
多分一発で気絶させたのだろう。
「一応麻痺だけはさせておくか」
「んぐぅっ!」
一瞬ビクッと身体が跳ね、くぐもった悲鳴が漏れる。
魔力が少ないためあまり狙った場所や加減は出来ていないが、生命活動には問題ないはずだからしばらくすれば動ける、はずだ。
一抹の不安を無視して、再び駆け上がる。
さらに進み、地下への入り口へ着くと五人の武装した男たちが倒れている。
しかしその中には切られた痕のある者もいる。
少々手強い相手だったのだろう。血痕もあるし、かなり不安だ。
そう思いながらも倒れているやつらに『麻痺』はかけておく。
それにしてもなんで二手に分かれているんだ?普通なら一緒に行動しそうなものだけど....
ん?何か聞こえるな。
最後の一人に『麻痺』をかけた所で微かに聞こえる音に気がついた。
まだ回復なんてしていないが構わず『魔眼』に魔力を流す。
一気に襲いかかって来る吐き気と視界が暗く狭まっていく感覚に耐えながらキリの行き先を辿る。
そこには新しい三つの霧が漂っていた。
宝物庫から小刀を取り出しながらそれを追う。




