計画、そして目覚め
「はぁ...はぁ.....ふふふ、何故アタシがサキュバスだと分かったのかしら?」
彼女はアズマに負傷を負わせてから、先ほどよりも後退して距離を取る。
そして荒くなった息を整え、優雅な仕草で爪に血をつけたまま口元へと運んで問うてきた。
「男たちを自分の色気で堕とす女を俺の故郷だとそう呼ぶだけで、当たったのはたまたまだ」
嘘ね。まあ、確かに彼の故郷ではそういう人のことをそう呼称するのかもしれないけど、そんな理由だけでアズマは人を判断しない。
恐らく『魔眼』で判別したのね。
それにしても出会ったことすらない魔獣、それも伝説上のまで分かるなんて。本当に可笑しな男....
そう一人、アズマのことを心の中で呆れて苦笑いを浮かべているサナであった。
しかし実際に彼女の推測は間違っていない。
東が女の正体に気がつけたのは『魔眼』でそう表示されたためであった。
「あら、お褒めの言葉として受け取っておくわ」
対する女は特に気にしたような風もなく笑っている。
「それにしても....アタシの目論見をことごとく外れさせてくれる子達ね」
「お前の計画性がずさんなだけだ。復興中の村を襲って、人を攫って、挙げ句男を使ってサナたちに手を出した。こんな目論見、ハナから成功する訳ないんだよ」
「あら、そんなの。でも事実途中までは成功していたわ」
「その後はどうするつもりだったんだ?あの村が復興中なのはギルドも知っていた。それがあんな状態になっているなんてこと、知られるのも時間の問題だった。そうなれば警邏だって動いた。それのどこが成功しているって言うんだ?」
「そんな事はどうだって良いのよ。警邏なんてアタシの敵じゃないもの」
「それも能力を使って男たちを利用するからだろ?」
「それもあるけど......ふふ、そうかもしれないわね」
最初の方が小声だったため東は聞き取れなかった。
しかしサナとニーナには聞き取れていた。
「それもって、まだ何かあるの?」
「......特に何もないわ。気にしなくて良いのよ、犬っころ」
女はとても晴れやかな笑顔でサナにそう告げた。
「犬っころ......?」
「「!」」
「っ⁉︎」
その言葉に反応したのは言われたサナ本人でもなく、同種で彼女の妹であるニーナでもない。
では誰か?
確かに東もその言葉に怒り、宝物庫から短剣を取り出しつつ彼女に接近しようとしているが声を漏らしたのは彼ではなかった。
その声を漏らした主は、自身の能力によって東より後に動いたというのに東よりも先に女の懐へと詰めていた。
女の眼前にはきらりと光、鉄の塊が伸びている。
「私の友達を侮辱、しないでっ!」
「ぐふぁっ‼︎⁉︎」
キリは勢いよく剣を振り下ろす。
一瞬の接近により反応が遅れ、放たれた三閃の斬撃を避けることが出来ず女の身体から血が噴き出した。




