痙攣、そして疑惑
「調子に、乗るなぁぁぁっ!!」
ボーノのことなど無視して話をしていたことが気に喰わなかったのか、それとも今の発言が勘に障ったのか、東の顎を狙って左アッパーを繰り出してきた。
「ふ、んっ!」
「ぐあぁっ⁉︎」
しかしその拳が彼に触れることはなく、アズマに顔面を押され後頭部から地面に打ちつけられた。
.....それ、普通に死ぬわよ?
そう東の行動に心の中でツッコミをするサナだが、そんなことをしつつも彼女はしっかりと彼に言われたことを着々とこなしていく。
今も氷の下にいたニーナもなんとか氷を割って助け出した所だった。
「あがっ、んがあぁっ!あ、あぁっ!」
先の一撃がよほど利いたらしく、少々痙攣を起こしている。
やり過ぎよ.....
「.....」
「んがっ⁉︎」
そう思っていると今の小さな苦痛の声を最後に、痙攣が止まりボーノが動かなくなった。
しかし息遣いは聞こえるので死んではいない。恐らくアズマの能力で動けなくさせたのだろう。
「ふぅー.....結構面倒な能力だったな」
どこがよ....
そうアズマの呟きに思いながら、妹の傷を癒やし終える。
「サナも大変だった、っ⁉︎」
「?........っ!!」
立ち上がってこちらの方を向いたアズマだったが、すぐに視線を逸らした。
そんな彼の顔は一瞬だったが頬が赤く、耳まで赤くなっていたのを確認出来た。
その反応の意味が初めは分からなかったが次第に自身の今の状況を思い出した。
慌ててキリとニーナを自分の元へ寄せて全員で全員の大事な場所が見えないように隠す。
「わ、悪かった!....とりあえずこれでも羽織っててくれ」
そう彼も慌てながら宝物庫から大きめの布を三枚、投げて渡してきた。
それとついでにとばかりにカイロも。
サナはそれを急いで全員に巻いていく。しかしまだ二人とも目を覚ましていないため、落ちようとする布を押さえようとしないので、少々苦労する。
「アタシを置いて、何を楽しそうな事をしているの?」
「「⁉︎」」
恥ずかしい思いをしていると、玉座の方から聞き憶えのある声がかけられる。
そちらに視線を向ければあの時遊戯の開始を宣言した女が、以前と同じく悠然とした表情でこちらを睥睨している。
そんな彼女の周りにも氷は張っているのだが彼女に絡んではおらず、むしろ氷が避け、彼女を導くように氷の柱が道のように伝っていた。
それも彼女の足スレスレ下を通っている。
その光景に思わずアズマに不信感を抱いてしまった。
本来この氷は無作為に人を絡めて走る。サナたち三人は偶然にも氷が走った下側にいたから免れたが、他の人たちはそうはいかなかった。
それに氷は観客席や通路まで伝っている。
にも関わらず、その氷は形作って彼女の足元に広がっている。
偶然にしては出来過ぎている。
しかしすぐにそんな考えを頭から振り払う。
「趣味の悪いことをする....」
アズマがそう呟く。その意味が分からず、疑問を抱く。
そんなことを感じていると玉座の人影が動く。
コツン、コツンっと氷の上を歩く音がコロッセオ内に響く。
そして彼女が端の方まで来ると、飛んだ。
「っ!」
高さはだいたい六間──十一メートルほど──。
それほどの高さから彼女は平然と飛び降りたのだ。
そしてトンっと全く音を立てずに着地した彼女は、ドンドン近づいて来る。
「そんな小娘達より、アタシと良い事しない?」
アズマの前まで来て立ち止まり、彼女は微笑んでそう告げた。
あけましておめでとうございます。今年も頑張って投稿していきますので、ご愛読のほど宜しくお願いします。
出来る限り、今年で終わらせられるように努めます。




