氷、そして脱出
何が起こっているのかをまだ痛む頭で必死に考える。
男たちに犯されそうになって目を閉じて、なかなか何もされずまた、急に寒くなったので目を開けてみたら視界一杯が氷まみれになっていた。
しかも私は絡まれていないけど、氷は私から五寸(十五センチ)ほどしか離れていない。
そしてその氷は私を襲っていた男たちに絡んでいた。
私が押し倒されていたから助かったけど、中腰や立っていた者たちは全員氷に囚われいる。
......分からない。でも、根拠はないけどきっとアイツが───
そう考えているとコロッセオに中に入って来る者の足音が聴こえる。
「初めてで上手く操れなかったな」
その聞き憶えのある声。
氷で覆われているため姿は捉えられないが、声の主は分かる。
「ありがとう、アズマ」
聴こえるかは分からないけど、彼の声を聞いて安心してしまったためか、気が緩んで漏らしてしまった。
「ええーっと......」
するとアズマの氷の上を歩く音が聴こえる。何かを探しているようだけど、ほとんど迷いがない。
「ここか。キリ、大丈夫か?」
彼はとある場所で止まり、氷に向かって声をかける。
氷を伝って、離れていてもある程度の声が聴こえる。まあ、耳が良いので氷越しでも聞こえるのだが、こちらの方がよく聞こえるので別に問題ない。
どうやらキリの元へ行ったようね。
しかし少し時間が経ってもキリの声は聞こえない。
代わりに水の蒸発の音が聴こえる。
「キリっ!大丈夫か⁈おい、キリ!」
アズマが慌てた様子で叫んでいる。
あの男の一撃でかなりの深手を負った彼女は、それでも最後まで抗っていた。そのためか最後は気を失っていた。
恐らく彼の問いかけにも答えられなかったのは、そのためだろう。
「すぅー........ふぅー.....!はあっ!!」
心を落ち着けて、振るい難いこの体勢から今出せる最大の威力の一撃を上がり突き──アッパーに近い突き──を放つ。
バキンッ!
まるで金属製の物が壊れたような音を立てて氷にヒビが入る。
アズマの硬すぎ.....
そう不貞腐れながらも、徐々に氷にヒビが伝っていくのを見守る。
と言っても壊しすぎる訳にはいかないので自分が通れるくらいにまでヒビが伝えば、もう一撃でそれを割る。
「っ⁉︎」
そしてそこから頭だけを出せば、そこには目を疑う光景が広がっていた。
コロッセオ全体、私たちがいるこの闘技場や観客席、通路に至るまで氷で覆われている。
しかし通路や闘技場の氷は地面を這っているのではなく、私の上を走っていたように地面から少々浮いて覆われている。
一体どうやったのかしら?
そんな疑問を抱きながらも氷から這い出て、記憶を頼りにニーナがいた方へと向かう。
しかし全裸なため這うのはもちろん、素手や裸足で氷の上を進むのは冷たく痛い。
それでもサナは進む。今は妹の安否のみが心配だからだ。
そんな彼女の心境は「どうかアズマに見つかりませんように」で、あったりなかったり。




