葛藤、そして群がる
しかしその速さでは無理だと悟ったサナは、キリに向かって叫ぶ。
「キリ!ニーナをお願い!」
「ダメよ。貴女を置いてはいけないわ」
「私は大丈夫だから!そんなことより妹をっ!」
「......ダメよ」
そんなサナの願いをキリは振り払う。
立てないほどの怪我を負っているサナ一人をこの場に置いて行けば、男たちの格好の餌だろう。
女に飢えている状態の彼らの前に動けないサナを置いては行けない。しかしそれはニーナも同じ状況だ。
だが、未だにニーナの側には初老の男性が立っている。
右腕だけ構え左腕は腰の辺りに回されており見えないが、攻められそうなのはその左くらい。そんな彼はこちら側を見てはいるものの攻めて来る気配がない。
しかしそれ故にキリは、ニーナを助けに行けないでいる。
サナが視線を向けた先にあの男がいたということは彼が彼女を投げたのだとキリは推測した。
となれば動けないニーナを抱えてあの男の相手をするのも、かと言って先に男と戦おうにもサナが苦戦した相手では時間がかかるだろう。
その間にサナが襲われてしまうという可能性を考えるとキリは動けないでいたのだ。
「っ!もういいっ!」
そんなキリに痺れを切らしたサナは、再び這いずって妹の元へと向かう。
「おーい、ボーノさん!その女、やったなら俺らが使って良いかー?」
「「⁉︎」」
そうこうしていると初老の男、ボーノと呼ばれた彼の元へ観客席で遠距離攻撃をしていた男たちや応急手当てを受け、もう戦闘の続行が不可能な男たち十数人ほどが向かって行く。
「ええ、構いませんよ。私はやる事がありますが」
「そっか、残念だな。まあ、俺らが調教しといてやるよ」
「ほどほどに」
「待ちなさいっ!私が代わりになんでもするから、その子に手を出さないでっ!お願い!!」
そんな会話をする男たち。彼らの顔には下卑た笑み、ニーナの身体を舐めるようにマジマジと見て、鼻息を荒くしている。
そんな彼らに苦笑いを浮かべるボーノ。
それを聞いたサナは叫んだ。
「....だってよ」
「良いんじゃねえの?どうせだし」
その言葉にサナは安堵する。
「いやどーせ動けねーんだぞ?あの子もこの子も犯しちまおうぜ?」
「あのなー。んな事は最初っからそのつもりなんだよ」
「そうだよ!見てよ!貴方のせいでああなっちゃったじゃないか」
そう若そうな男がサナを指差した。
彼らの言葉によって安堵したサナは一変して絶望していた。
「なあ、ボーノさん。あの剣持った女もとっとと倒しちゃって下さいよ」
「そういう訳にもいきません。先ほども言いましたが、私は忙しいので」
「えー、暇そうじゃん!」
「もう俺らこの子らに負けて、勝てる気しねーんだよ」
「知りませんよ」
手を合わせ拝みのポーズで頼む八の字髭を生やした男に素っ気なく答えるボーノ。
そんな彼らの会話に割り込む者が。
「ねえ、まだなの?」
「「「「「「「「「!」」」」」」」」」
未だ玉座にいる彼女が、かなり離れているにも関わらず大声を出していない彼女の声が皆に届く。
その声を聞いた男たちはビクンッと身を跳ねさせて女の方を向いて頭を垂れた。
「申し訳ありません!もう間もなくおっ始めますので!」
「盛り上げてみせます」
「そのー、出来れば貴女様ともー....いえ、なんでもございません!」
そう口々に述べる男たち。
そして全員が一斉に顔を上げ、半分がニーナを半分がサナとキリに視線を向ける。
「ボヤボヤしてねえで、犯すぞ!」
「いくら腕の立つ剣士つったって相手出来て二、三人だ!数で押せえー!」
「お前らもとっとと来い!」
そう叫びを上げ互いに士気を高め合う。
そんな彼らが呼んだのは、先ほどまで負傷で倒れていたはずの男たち。
まだ傷の手当てなどもしていないはずの連中が、身体を無理矢理起こして向かって来る。
「じゃあ、頑張れ。俺はこの子を貰うから」
そう言って一人の男がニーナへと手を伸ばす。
「おおぉー....」
そしてその男がニーナの少々ボロボロになっている服を破いて、彼女の肌を露わにする。
着ている鎧が邪魔で少々見え難いが、そこには彼女の胸を守る赤色の下着が見えていた。
女性が着ている下着を初めて見た、この男は思わず感嘆の声を漏らした。
「ごくり.....」
そして男が生唾を飲み込んで、まずは邪魔な鎧を外そうと再び手を伸ばす。
その刹那。
伸ばしていたはずの彼の腕が、宙を舞った。
「え.......?」
その光景に驚きの声を漏らした。
そんな彼の横には剣を振り切った体勢のキリの姿があった。
「「「「「「「「「っ⁉︎」」」」」」」」」」
いきなり現れたキリに周りの男たちは驚きを隠せないでいた。
それはボーノも同じであった。
そして全員が今目の前で何が起きたかは理解出来ていなかった。
ニーナに手をかけようとしていた若い男を観ていた者たちは一瞬にしてキリが現れたかと思えば、彼の腕が切られる瞬間しか目に映っていない。
その間に彼女がこちらに駆けて来る姿など目視出来ていなかった。
まるで瞬間移動したかのように現れたのだ。




