内容、そして移動の能力
「そんなはずなかろう」
ダメでした。
あの後俺の叫びを聞きつけて警備の人らが中に入って来て、俺の様子を確認すると一人がどこかへと駆けて行った。
そして長を連れて戻って来た。
長は人払をすると、何故叫んだのか訊かれたので先ほど考えたことを伝えた。
しかしその言い訳は、呆れ顔で否定された。
確かに自分でも訳が分からないのに他人が分かるはずもない。
では信じてもらえないのならっと思い、今のを冗談として夢の内容を話した。
当然夢だと説得力はない。しかし不安であることが伝わってくれれば、それで良い。
ついでに叫んだ理由も夢のせいにしておこう。
「うーむ.....本当に貴様は不思議な男だ。その仲間の女子たちとはここから一里と少しほどは離れた村で別れたのであろう?それほど離れている者たちの様子が見えるとは思えんが......!もしかしたら天使様という御方が貴様の仲間のために観せてくれたのかもしれんな?」
最後の方で何かに気がついたような表情を一瞬浮かべた長は、自信があるぞっという風な表情で問うてきた。
.....どっちかというと神様の方が出来そうな気がする。
色々と面倒になるので言わないでおくけど。
「だったらありがたい限りだよ。だけどもし本当だったらって思うと心配だからすぐに向かいたいんだ」
「まあ、万が一ということを考えるとそうしたいな」
「ああ。だから...その、なんだ........」
どう話を切り出したものか悩む。
一応焦っていることは伝わっているようだが、さっきまで言い合いしていてユキナのことを始末しよう考えていた相手に、どう言えば良いのか.....
「アズマ様は、嘘を看破する魔道具を待望されているのではありませんか?」
「「っ⁉︎」」
言い淀んでいると右横にドライアドが現れた。正座で。
いきなりの登場に驚いたが、彼女が言った通りなのですぐに気持ちを切り替える。
「ああ、その通りだ。夢だけど急ごうと思って。それであんな話し合いの後で図々しいお願いなのは分かっているけど、出来れば無条件であの時言っていた魔道具を貸して欲しい」
俺はその場で頭を下げる。
正直こんなことをしても貸してもらえるなんて思っていない。それも無条件で。
「ふむ.....構わんぞ、それで」
やはりダメか。
この世界にとって嘘を看破する魔道具がどれほど高価な物なのかは知らないが、皆の反応からして相当な物だろう。
金で解決出来れば良いが、そういう訳にもいかない......ん?
「え....今、なんて?」
「だからその提案を聞き入れてやると言っている。元々、里の危機を救ってくれたしな。その礼と思って持って行け」
あっさりと許された。
あまりにもすんなり受け入れられたので、実はこれも夢なのでは?と疑いたくなってきた。
「少し待っておれ」
そう言って長は立ち上がり、スタスタと部屋を出て行ってしまった。
残された俺は、チラッとドライアドの様子を窺う。
彼女は目を瞑り待っている様子。これは去る気はなさそうだな。
そんな彼女と何を話したら良いのか分からず、気まずい雰囲気の中待たされることとなった。
ユキナ、あれから見かけないけどどうしてんだろ?
そう疑問に思って『千里眼』を使う。
「大丈夫ですよ。ユキナ様は、私が責任を持って保護しておりますので」
「あ、どうも....」
しかし探す前にドライアドに止められた。
まさかトールさんみたいに心読めるんじゃないだろうな?
「........」
「........」
そう思い彼女を見るが、何も反応を示さない。
まあ、良いか。どっちでも。
再び沈黙が訪れると思っていたら、意外にもドライアドが問うてきた。
「そういえば先程の御話に出ていた村とは、昔、ユキナ様が逃げ着き、今復興途中の村の事でしょうか?」
「あ、ああ。多分それで合ってる」
「でしたら私が御送り致しましょうか?」
「どういうことだ?」
「知って通り、私達ドライアドはこの森の中でしたらある程度は自在に行き来が可能で御座います。そしてそれは私の能力により、一人のみですが同伴者を連れる事も可能なのです。ですので、宜しければ御送り致します」
彼女はそう柔らかい笑みを浮かべながら優しく述べる。
ゲートに近い能力を持っているのか。少し劣ってはいるが、ゲートは神様の力で可能な訳だから純粋に能力として持っているのはすごいと思う。
というかゲートのことは知らないのか?森に入る時に使ったはずだが.....
まあ、知られていないならそれで良いか。
エルフの人らにゲートのことを知られないのはありがたいしな。
「ああ!いや、でも....」
「如何致しましたか?」
確かに彼女の提案はありがたい。ありがたいのだが───
「一人だけってことは、ユキナとは別行動になるんじゃ.....」
不安の要について訊いてみる。
恐らく認められたとはいえ、まだ敵視されているであろうユキナをここに置いて行くのは気が引ける。
「御安心下さい。私とそして他の妹達で御護り致します故」
「妹、たち?」
「はい。ドライアドは一人ではありません。しかし私は一応長女を務めてはいますが、人間のように日時別に生まれたりする訳ではありませんでした」
「でした?」
「はい。最初の頃はその者の技量の優劣によって決めておりましたが、ドライアドといえど不死身ではありません。そのため新たに生まれてきたドライアド達は、結果的に人間のように妹となりました」
「そんな風に決まっているのか。てことはその妹さんたちも同伴者を連れて森を移動出来たりは?」
「いえ、残念ながらそれは出来ません。彼女達独りだけでしたら移動は可能ですが、『ジャブィン』は私の固有能力ですので」
「なるほど」
“ジャブィン”というのが移動する際に同伴者を連れて行ける能力の名なのだろう。
「ですので、連れて行けるのは御一人となります。申し訳御座いません」
「いえ、連れて行ってもらえるだけありがたいので。ところで移動にどれくらいかかる?」
「此処からですと、一分も掛からないかと」
「おお、早いな。それはありがたい」
「有難う御座います」
ドライアドは嬉しそうに笑う。
「それで如何致しますか?」
「では、お願いします」
「はい」
再び頭を下げて頼めば、彼女は快く受けてくれた。
「待たせたな」
そうこうしていると長が縦横三十センチ四方の正方形の箱と倒れる前に見た箱を持って現れた。
この作品、いつ頃終わるのかしら....




