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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第17章 リリーの真偽
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気絶、そしてドライアドの思惑

 

「やはり、無理であった様ですな」


 ワシはそう言い立ち上がると、そのままドライアドの方へと歩み寄る。


「そこを退いていただけますか?」


 否、ドライアドに用があるのではなく、扉の前にずっといるドライアドに近づいただけなのだ。

 つまり、単に部屋から出たいのだ。


何方(どちら)へ行かれるのですか?」


 しかし彼女の真ん前まで来たが、退く素振りすらなく逆に問うてきた。


「今のうちに忌み子を始末せねばと思いましてな」

「あら、先程のアズマ様との会話を聞いていなかったのでしょうか?それとも冗談でしょうか?」


 そうにっこりと微笑み、右掌を自分の右頬に当てて困った様を示す。


「何、真面目だとも。そこにせっかくの機会(チャンス)があるのをミスミス逃す訳にもいきませんので、是非回収しようと思いまして」


 もう面倒なので何食わぬ顔で彼女の横を少々強引に通り過ぎようとしたが、一歩踏み込んだ瞬間顔面に向かってブオッと風が吹いた。


「ダメですわ。私は彼と約束しましたので」

「しかし彼が暴走を止められるということを証明出来なかったではありませんか。ワシはそれを証明することが出来れば、この件については納得するつもりでした。これは貴女の提案ですので、失敗したからにはもう異論はありませんね?」

「いいえ、彼は概ね成功して下さいました」

「見苦しいですぞ。いくらドライアド殿であっても、この状況で成功と言い包めるのは無理です」

「では、魔道具を御覧下さい。きっと御分かり頂けるかと」


 ドライアドはそう言うと剣が収まっている箱を指差す。

 しかし彼女がここまで強情を張るとは思わなかった。

 確かにワシらではドライアドに逆らうことは出来ないが、それでも彼女の提案で証明が成立しなかったのだから異論を唱えるのは間違っている。

 そう不満を覚えながら、倒れている青年の横を通り、腕の先にある箱に手をやる。


「っ⁉︎」


 その箱の中を覗くと、魔道具の変化に息を呑む。

 先ほど、確かに黒一色だったはずの刃。しかし今はほとんど錆が落ちて、波紋が漂っているのが薄っすらとだが見える。

 まだ錆は残っている物の、この剣の美しさは見えている部分からでも感じられるほどの一品だ。

 しかし今追求すべき点はそこではなく、問題はいつこうなったのか、だ。

 あの青年が触る数刻前までは確かに黒錆だらけだったはず。そして彼が倒れてからまだ小半刻(じゅうごふん)も経っていない。

 恐らく気を失う前に何かしたのだろう。

 確かにこれには驚いたが、ドライアドはこれでどうやって証明するつもりなのだろうか?


「長殿も知っての通り、その魔道具は今からおよそ七五十年前に貴方方が牢樹を呼ばれる樹を植えた際に発掘された物。その頃からその錆は落ちる事なく、覆われていました」

「左様。しかしたかが錆を落としたくらいで、忌み子の暴走は止められません。人の身で天災を止めるなど、不可能なのですから」

「いいえ、アズマ様なら可能でしょう。例え人の身であろうと。その根拠が、そちらの魔道具です」

「ですから、これでどうそれを証明するのですか?」

「.....では、その錆は魔素が固まった物なのはご存知でしょうか?」

「初耳ですな。我々ではそこまで見抜けませんので」

「そしてその魔素の塊は魔道具に触れた者の魔力を吸う事で、少しずつ解けていきました。今まで触れてきた方々の魔力を吸って、です」

「?それが何か?」

「つまりアズマ様の魔力量はエルフの方々の比ではないほど、莫大なのです」

「っ⁉︎そんなバカなっ!我々エルフが魔力量で人間に劣っていると?そんなこと、あろうはずが御座いません!たまたまです。今まで解けていた分がたまたま彼の時に解け、刃が見えただけです!」


 いくらドライアドの言うことでも許されない。冗談が過ぎる。

 エルフは生まれた時から魔力量が多く、例え赤子の時でも魔力量の多い成人の人間よりもその魔力量は凌駕している。

 そんな我々エルフよりも人間であるこの青年の方が魔力量が多い?くだらん冗談にもほどがある!


「いいえ、これはアズマ様の魔力量によって解かれたのです。たまたまでは御座いません」


 そうドライアドは言い切った。

 確かに彼女らは魔力を視る眼を持っている。

 本来彼女らは魔獣、その中でも高位の存在。魔力の多さなどを視る眼を持っていても不思議ではない。

 もしくは精霊様の加護で視えているのかもしれない。

 だからといって、彼女の発言を赦すことは出来ない。


「ゴホン。話を戻しますが、私はドライアド、この森全て(・・・)が私でも在ります」


 彼女は咳払いをしてから、唐突に自己紹介を始めた。


「そんなことは知っている。話を逸らすでない」

「そしてこの森の中での出来事は、全て知る事も可能です」

「.....」


 話を戻す気がない様だ。

 彼女の言ったことはワシらも代々語り継がれているため知っている。

 故に彼女らは森に害をなす者を裁くことが出来る。森の中での言動は全て筒抜けなのだから。

 そのため禁忌の魔道具のことも知っていたのだろう。


「アズマ様は、よくこの森を訪れ魔獣の討伐をなさいます。恐らくは人間の街に在る冒険者ギルドからのクエストでしょう。彼はグラルドルフやマダルノ蛇の希少種をお一人で討伐出来ます。そんなアズマ様の能力に“他者の魔力を吸う”能力が御座いました」

「っ⁉︎」


 なんだかあり得ない討伐の話があったように思うが、それよりも最後の言葉に意識が向く。

 その能力はまさに今、彼を試すために使用した魔道具と同じ能力。

 そんな能力を持っていたとは.....しかしそんな偶然があるのか?

 ワシがたまたま保管していた魔道具と同じ能力者がたまたま訪れ、手にすることが....?

 そういえば精霊様が仰っていたな。この青年は精霊様よりも高貴な存在である天使様という方に会ったことがある、と。

 もしその天使様という方がそうなる様に仕向けたとしたら?

 先ほどからドライアドの言葉は何か知っている風であった。

 つまりドライアドはその天使様という方から勅命を受けて、今ここにいるのではないか?

 そしてそんな御方に遭い、なおかつ精霊様にも認められているということからこの青年が居れば忌み子の暴走の心配はなく、安心して暮らせると判断したから精霊様の命でもないのに動いたのではないか?

 ふむ、そう考えれば辻褄が合う。

 そして先ほど彼女が述べた、『エルフを凌ぐほどの魔力量』と『他者の魔力を吸う』能力。

 この二つから考えて───


「暴れ出す前に、青年が忌み子の魔力を吸い尽くす訳か」


 魔力が枯渇すればこの青年の様に気を失う。

 そうなれば暴れようがないし、まずその能力を動かすための魔力もない。

 なるほど、それを知っていれば大丈夫だと思える訳か。


「正解で御座います」


 そうドライアドは優しく微笑む。

 この微笑み、昔見た時と同じく心温まる笑み。

 ....どうやらワシの情報は古い所で止まっているようだ。彼女のように知っておけば良いことも、知らないのだから。

 まだ不安はあるが、ワシもその天使様とやらの判断を信じるとしよう。

 それにしても天使様とやらにも認められるとは、この青年、一体何者なのだ?

 そんな疑問を抱きながら外で待機している者に、この青年用の寝床を用意するよう命じる。

 それとこのことを他の者にも報せねばならないので、話し合いの場を用意させる。



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