続く被害、そして教養
そうと分かれば当然もう止めるように訴えた。
恐らく山の向こうで渦を巻いているあれも、彼の仕業。
しかしレイオはあの渦を消そうとはせず、黙っているだけなのだ。
顔を俯かせ、ただ黙るだけ。それはまるで、我々に顔を見せないようにしているようだった。
そうしているうちに王都がある方角に天地を繋ぐ風の渦が発生した。それは二、三つと徐々に数が増えていった。
さらに数刻とせぬうちに、今度は今はエネリアの町がある方角に激しい豪雷が走る。
かなり距離があるというのに、空気が振動しているのを感じた。
それを怯えながら観ることしかワシらには出来なかった。山の麓から灯りが見えた。恐らく山火事だろう。
そこからは大変だった。
火事はどんどん広がっていき、ワシらの里の方へ火と煙が迫って来ていた。
その光景でようやく我に返ったワシらは聖樹へと向かった。
森や里を捨てるのは忍びなかったが、その時は生きるのに必死だった。
聖樹は精霊様の加護を一番に帯びている故安全だと本能的に判断した。
時折風で巻き上げられたどこかの木がこちらにまで飛んで来ることがあったが、途中で軌道を変えるか切断されるかして助かった。
そんな状態ではあったがなんとか聖樹へと辿り着き一命を取り留めた。
あの時は逃げるのに必死だったが、後にレイオの姿が見当たらなかいことに気がついた。
果たして彼はどこへ行ったのか。
それから数年ほどは災いが続いたが時期に去り、残った者らで里を復興し、畑を耕し食糧を安定させ、警備を強化し、子孫を繁栄させ、今に至る。
「───っと、いうのが昔から忌み子が疎まれ、貴様の言う敵視される理由じゃ」
一通りの説明を終えると、昔の記憶に耽っていたせいか頬には涙が伝っていた。
慌ててそれを手で拭い払う。
涙など、人前で見せたのは何年ぶりだろうか。
そんなことが一瞬思い浮かんだが、どうでも良いのでそれを頭から振り払う。
「流石に聞いたことはあろう?」
そして当初の目的であることを青年に問う。
流石にここまで話せば知らぬはずはない。レイオによって出た悲惨な被害は当然歴史に残っているだろう。
そしてそれは例え冒険者であろうと知っているだろう。
「いや、やっぱり知らないな」
そんなことはなかった。
一体どうなっているのだ?人間たちの教養は。
あれだけのことがあったというのに.....
「.....まあ、さっきからこれ繰り返しではキリがないな。とりあえず忌み子がどれだけの災いを呼ぶか、理解出来たか?」
「うーん.....確かに話を聞いてみてレイオというハイエルフが何を仕出かして、忌み子と呼ばれるようになったかは理解した」
その言葉に少しだけホッとする。
流石にこれが理解出来ないと言われれば、もうオレの手には余っていた。
しかしオレのこの想いは次の彼の言葉で崩された。
「でも、所々で可笑しな点があるのがどうも気になる」
そんな彼の言葉に、次はなんだ....と思わず身構えてしまった。




