怒り、そして堪え
「貴様、忌み子がどういう存在か知らんのか?」
オレの質問に青年を首を傾げて返答した。
嘘だろ.....
「では、忌み子が何を仕出かしたくらいは知っておろう」
しかし青年は首を横に振る。
そこからかっ.....
「いやいやいや、それくらいは知っているはずだろ!あれだけのことを引き起こしたのだぞっ?」
声を荒げて問うが、やはり青年は得心がいっておらず首を傾げるだけ。
此奴!やはりオレとは腹を割って話す気がないのだ!
でなければ、知らぬはずがなかろう。
忌み子が起こした大災害のことを。
「いい加減にしろ!忌み子が何をし、どういう存在なのか理解しているはずだ!そうでないのなら、貴様はどれだけ常識知らずなんだっ!」
先ほどよりもさらに声を荒げて叫ぶ。
言い終えると息が荒くなり、肩で息をする羽目になった。
その様子を見てどう思ったのか、彼の表情が変わらないため分からないが、さすがにこれでちゃんと答えるは───
「悪いが、知らない」
そんなことはなかった。
「っ!話にならん!」
そう言ってワシは立ち上がる。
そしてそのまま部屋から出ようとしたが、あと一歩で出られるという所で足が止まる。
「.....」
しばらく考えた末に、出るのを止め元の場所へと戻り座り直す。
退出しなかった理由は単純だ。
精霊様の命を拒否した自分が、その考えが間違っているかどうかを判断しなくてはならないこの場から逃げることは、精霊様の命を拒否した自分が間違っていたと告げることに等しい。
そしてその場合、如何に寛大な精霊様でもワシを咎められるだろう。
そこは構わんのだが、里や民を巻き込む訳にはいかん。
それは忌み子を放置していても同じこと。
故にワシが掴み取らねばならんのは、精霊様が仰ったことが間違いであることを証明することのみ。
それを捕らえずにこの場から去ることはしてはならない。
怒りを堪え、相手と話をする。
そんな当たり前なことが出来ずして何が長か。
そう自分を奮い立たせるように、言い聞かせて去らないように意を決する。
「知らないのは事実なんだ。とりあえず何があったのか、教えてくれないか?」
座り直してそうそう、青年がそう要求してくる。
まさか、ただ本当に知らないだけなのか?
そうふっと湧いた疑問を抱きながらも、昔を思い出しながら何があったのかを語り始める。




