考え、そして覚悟
『......時にエルフの長よ、ソナタ、この男の事をどう考えている?』
「───っ!は、はいっ!」
先ほどから二人で話合っていて、ワシは蚊帳の外だったが急に話を振られ数刻反応が遅れてしまった。
しかしそんなことで返答しないとはならない。むしろそちらの方が不敬である。
「.....正直な所、あの女の件ではその者には感謝しています。我々の精鋭部隊では勝てなかったのは分かり切っておりました。しかし、忌み子はこの者と共にこの里に舞い戻って参りました。それは先のこととがなくとも、即刻対処しなくてはならないことです....」
ワシは思っていることを正直に淡々と述べる。
嘘を吐いて良い相手でないのもあるが、それよりもここにいる者たちに、何よりワシの先ほどから揺らぎかけている心を決めるために嘘を吐いてはならない!
「──っ、故に!この男及び忌み子は即刻処刑するべきだと考えています!」
言い切った。
これにより青年にワシが殺されようが構わん。それでも里に災いが訪れられる方が困る。
「.......」
チラリと青年の様子を窺う。無言で、ワシを睨みつけている。
しかし彼の恐怖に慣れたのか、それともワシの肝が据わったのかあまり恐れを感じていない。
ならば、この勢いを続けるのみ。
『.....そう。なら今すぐにその考えを改めて』
「⁉︎」
そう意気込んだ矢先、精霊様から思わぬことを言われた。
「それはどういうことですか.....⁉︎」
『そのままの意味よ。今、ソナタが考えている事を改めてっと言っているの』
「何故ですかっ⁉︎あの女から里や森を救ってくれたから、その報恩ですか!それともこの者がその天使様という方の気配を纏っているからですかっ!!」
つい本心を叫んでしまった。そして叫び終えてから、自分の失態に気がついた。
あれ程敬っていた精霊様に対しての失言。
それが何を意味するか、分かっていない訳ではない。
違う、今のは.....ワシは間違ったことなど言っていないっ.....
それに精霊様はあの青年を───いや、言い訳など見苦しいだけか。
一度口から出てしまった言葉はなかったことに出来ない。そして自分の失態をなかったことにすることも。
しかしそれでも───
「......ワシはこの者と忌み子の処刑を、懇願、致します」
頭を垂れ、か細く枯れそうな声で、ワシは告げた。
かの御方の言葉は絶対。それを理解しているにも関わらず、ワシは拒否した。
それが何を意味するか。そしてかの御方の機嫌を損ねれば、ワシらがどうなるのかも。
ちゃんと理解した上で、告げた。
『.......』
精霊様は何もおっしゃらない。
その場に沈黙だけが訪れるのみ。
恐怖はあった。自分の失態によって里の者たちの今後が変わってしまうことを想い。今まで里を築き上げてきた先代たちの想いを踏みにじり、なかったことにしようとしてしまう罪悪感。
もしかしたら精霊様からの粛清を受けるかもという想い。
それよりも先に先ほどの言葉に憤慨し、青年がワシ共々里を消すかもしれないという想いから。
しかしそれだけ恐怖していても確かなことがある。
“ワシは間違っていない”と。
『.....ソナタの考えは理解した』
その沈黙を破り、精霊様は告げようとしている。
その瞬間ワシは、死を悟った。だが悔いはない───
『今一度場を設け、互いの素直な意思を確かめ合いなさい』
「っ⁉︎」
それは予想外の言葉だった。
「それはどういう.....」
返事がない。
「精霊様っ!精霊様っ!!」
何度かの御方を呼ぼうが返事はなく、ただ沈黙だけが返って来るのみ。
しかし数刻後に、声がかかる。
「もういないよ」
それは青年からの言葉だった。
まだ残ってはいますが、ある程度落ち着いてきましたので、なるべく早く続きを出し続けます。




