王様からの依頼、そしてアルタイル
「このっ!」
グシャッ!
生々しい音が耳に流れてきた。首から一角狼の頭が地面に落ちる。
「ふー、これで15体目。クエスト終了だな」
「お疲れ様」
「お疲れ、様」
「ああ、2人もお疲れ」
俺たちは15体分の一角狼の角を切り取って宝物庫に入れて甘味の俺の部屋までゲートで飛ぶ。ギルドまでゲートを繋いでも良いのだが驚かれて、色々と変な噂が起こっても嫌なのでやめた。
甘味から歩いて20分もかからないうちにギルドに着いたので受付台へ行き宝物庫から一角狼の角15本と前にダンジョンで剥ぎ取っておいた20階以下の魔獣たちの素材も適当に出して買い取ってもらった。
「お疲れ様でした。今回のクエストクリアにより、キリサキ様、ヘルクレット様、ホルスト様のギルドランクが黒から茶になりました。おめでとうございます」
「おお」
「やった!」
「やっ、た」
キリとユキナのギルド申請をしてから数日、ようやくギルドランクを上げることが出来た。と言っても、俺もキリもレベル的に苦戦することはなかった。
ユキナもなかなか強いのだが、何故か双剣でしか戦わない。俺の知っているエルフは魔法と弓矢が得意らしい。
気になったのでその理由を聞いてみたら、弓は普通に使えるがエルフの里を離れてしばらくしてある魔獣にやられたかけた時に旅の人が助けてくれたそうだ。
その人の顔はフードで隠れていて見えなかったらしいが、その魔獣を倒す時にその人が使っていたのが、今ユキナが持っている双剣だそうだ。
なんでも、ユキナの武器が弓矢しか持っていなかったのを見て譲ってくれたそうだ。それで今に至るとのこと。
ギルドを出て甘味を目指して歩く。
「この後どうする?」
「私はイーストで新作が出るって言うからそっちへ行きたいかな」
「私、はソシャルで足、りなく、なったも、のを買いに行っ、たあ、とにオニテ、ツに頼んでお、いた防具、を取りに、行く」
「そっか。じゃあ、俺もやめにしてちょっと王都へ行くとするか」
「? 王都に何か用事でもあるの?」
「ああ、ちょっと用事があってな。それと王様にも呼ばれてるし」
「「お、王様から⁉︎」」
うんまー、そりゃ驚くよね。一般の平民で駆け出し冒険者をわざわざ呼ぶんだから、普通は驚く。まー、王様もとい神様からしたらただの暇潰しで呼んでいるだけだろうけど。
「あ、あ、東何したの⁈」
「何もしてないって!」
「じゃあな、んで?」
「分からない。とりあえず王都へ行くついでに寄るつもり」
「「.....」」
うん、分かるよ。王様から呼ばれているのについで感覚で行くのは普通じゃないよ。でもね、あの神様がちゃんとした理由で呼ぶとは思えないんだよ。だからその冷たい目はやめてください!
「と、とりあえず各自自分の用事を済ませるってことで...」
「「......」」
この空気が怖い。
______________
「それで、なんで俺を呼んだ訳?」
「そんなトゲトゲしないでくれよ。君の行動は知ってるよー。私が呼ばなかったら不動産屋に行っただろ?」
「ストーカーなの? 訴えるよ?」
「はははっ、でも事実だろ?」
「....まー、そうだけど」
そう、俺の用事とは不動産屋へ行って家を買おうと思っていたのだ。この世界ではお金と書類に印さえすれば誰でも家が買えるそうなのだ。お金を用意出来れば、基本どんな者でも買える。
別にカナさんのところが不満という訳ではないのだ。ただ男ばかり、女性もちらほらいたが、そんな宿にキリやユキナがいるのは居心地が悪いのではないかと思ったのでどうせなら家を買おうと思ったのだ。
仲間じゃなくなっても持ち家なのだから別に平気である。ただ男の家に年頃の女の子二人が共同生活をするっていうのも結構ダメな気がする。
しかしそれでも宿より過ごしやすいと思う。
「そこでだ、私がそれなりの難易度のクエストを君に指名するから、それを受けてもらいたい」
「意味が分からん。俺を指名したら変な噂が広まりそうだし、第一にそれを臣下の人たちが納得するのか?」
「大丈夫だよ。名目上はダンジョン攻略者ってことを踏まえての依頼とするから」
「うーん......まあ、正直受けるかは仲間に訊いてからにするとして、どんな依頼をするつもりなんだ?」
「2つ考えている。1つがこの国と貿易関係にある国に数日前に現れた巨獣の討伐。もう1つが近日ある国との平和条約の交渉があってね。どちらかの王が行かなきゃいけないけど必ず危険が生じる。だからアズマくんに先にその国へ行ってもらってゲートを繋いで欲しい」
「1つ目はこの国の騎士団で、2つ目も護衛の騎士団を増やせば解決しないのか? それに分かっててだろうけど、ゲートを大勢に見せる訳にはいかないから説明が難しいだろ」
「いやいや、流石にそういう訳にはいかないよ。第一どっちもアズマくんがやってくれた方が被害が少ないんだよね。ちゃんとどっちの依頼でも国から交通費とかは出すから、お願い出来ない? ゲートについては私が対応するから、そこは安心してくれて良いし」
「って、言われても......」
「報酬は君の望む物を私の出来る範囲で1つあげよう」
「いや、それだと国をくれって言ったら終わるぞ?」
「それはないって私はアズマくんを信じているよ」
うわー、良い笑顔。いや、実際言うつもりないけど。はあ、もういいや帰ろ。
ゲートを甘味へと繋ぐ。家探しはまた今度にしよう。
「まあ、考えて置いて。それでも1週間以内には決めておいて」
「ああ、分かったよ」
ゲートを潜って王城を後にした。
ちなみにキリが食べて来たイーストの新作料理とは、俺がナナミさんにチャーハンの作り方が載っているレシピを渡して、ナナミさんのお任せで作るチャーハンだった。
ユキナの装備はかなり軽装で、特に胴体なんて胸回りが覆われているだけの革装備だ。
俺も他人のことは言えない、軽装備なんだけどさ。他人のことだと無性に心配になるって言うか、ね?
______________
俺たちは船の上にいる。理由は先日王様に依頼された貿易国に現れた巨獣の討伐をしにその国へと向かっている。7日間馬車に揺られ、俺たちがいた街から南へ行ったところにあった港で王様から預かっていた証人状を見せて特別な船を出してもらい、4日が過ぎた。船客は、俺とキリとユキナ、それと船長と乗組員の人たち数人、護衛役も数人乗っている。他の船客はいないので、騒がしくもない。
そして俺たちは俺お手製のすごろくをやっている。ちなみに昨日まではかるたをしていた。絵心がない俺には上手い絵を描くことが出来なかったので、キリとユキナに描いてもらった。普通に上手くて感心と悲しみが俺を襲った。
「よっ!......6か。1、2...6、えーと、次の手番の人の肩を1分間揉む、か」
俺の次の手番はキリだ。とりあえずキリの肩を揉む。なんか恥ずかしい気持ちがある。
しかしこれ、自分で作っておいてなんだけど、かなり酷い出来だと思う。素振り100回とか腕立て腹筋50回を2セットとか今みたいな肩を揉むや1回休みなどがある。
ていうか、キリの肩を揉み始めてからのユキナの視線がなんか鋭い気がする。早く1分経って!
この世界には時計、正確には分を詳しく知ることが出来ないというだけでだいたいの時間は太陽の位置を利用しての日時計があるらしい。
しかしこれは特殊な仕掛けがされているらしく、詳しくは分からないがコンパスのように北の方向が分かる仕かけもされているから結構高いらしい。なので1分間を口で数えるしかないのだ。
「58、59、60。はい、お終い!次キリだぞ」
「う、うん」
「......」
俺もキリも頰が赤くなっているしユキナはユキナで何故か鋭い目をやめてくれないどころかしゃべりもしないし。何この地獄絵図......地獄絵図なのか?
「それっ!......3ね。1、2、3、えーと、チェートの実を食べる⁉︎ やった!」
うお、めっちゃ良い笑顔。チェートの実とはチェートという花の魔獣から少ししか取ることの出来ない実で、さらにこのチェートの生息地も険しい崖などといったところに生息している。それが港街で売っていたので買っておいたのだ。値段は......まあ、聞かないでくれ。
宝物庫からチェートの実を取り出してキリに渡す。
「はんっ、んん、んん、んーー! 甘くて美味しーっ」
キリが喜んでるなら値段くらいどうでも良いか。
「さ、次はユキナだぞ。あと少しでゴールだから頑張れよ」
「うん、私頑張、る」
今現在、ユキナが残り8マスでキリが残り11マス、俺が21マスだ。俺は序盤は1位だったのだが、スタートに戻るのマスを踏んでしまいビリになってしまったのだ。
「えいっ!......4。1、...4、ぼーなすえ、りあ? サイコロ、の数字を人、数で割って出た目、の人に軽いお、願いを、聞いても、らえる」
あー、こう言うのも欲しいよねってノリで書いたやつだわ。
「じゃあ、1、2、3がアズ、マで4、5、6がキリ、ね?....それっ!」
「「.....」」
コンッ...コンコンッ
「3だか、らアズマ、ね?」
「ああ、分かった......」
何か嬉しそうなユキナを見て複雑な気持ちになった。
「じゃあ、頭撫、でて」
まだ軽い方かな? とりあえず言われた通り、ユキナの頭を撫でる。少し癖っ毛のある彼女の髪はサラサラで気持ちが良い。
......あの、キリさん。今度はあなたですか⁉︎ だからその目はなんなの⁉︎ 怖いからやめてください!
こんな感じですごろくは続き、ユキナがゴールへピッタリ行くことが出来ずにいる間にキリが追い越して逆転勝利となった。
______________
「うう、気持ち悪い......」
「東、大丈夫?」
「うん......なんとか吐かずには済みそう」
さらに5日ぐらいかけてようやく王様から依頼された国に着いた。しかし俺は前の世界で船に乗る機会なんてなかったので、すっかり酔ってしまった。
キリは何度か乗ったこともあったらしく酔わなかったし、ユキナも平気だそうだ。
「ええっと、ここが依頼された国で良いんだよな?」
「ええ、船員さんもここで合ってるって言っていたから」
「ここが“アルタイル”か」
俺たちが王様に依頼された国、アルタイル。最初王様から聞いた時は何言ってんの? って思ったけど、どうやら本当のことらしい。ちなみに俺たちが出て来た国、あの神様が王として納めている国が“ベガ”と言うそうだ。
「でも、魔獣が暴れているって聞いてたけど全くそんな感じがしないわね」
「でも街、の人たちが何、か怯えてい、るみたい」
確かに、魔獣が暴れたのなら家などは前のルドルフと同じで壁などがなくなっていそうなのに普通に建っている。店だって普通に営業をしている。
しかし街を行き来している人たちは、皆下を向いて足早に移動している。その表情も優れていないし、ユキナの言うように何かに怯えている感じがする。
「アズマど、うするの?」
「うーん、とりあえず各自で魔獣についての情報収集かな?」
「分かった」
「ん」
3人でバラバラに街の人から情報収集して日が暮れたらここに戻って来ることになった。
知らない国の知らない街だからバラけるのは危険かもしれないが、彼女たちなら余程の相手でもなければ大丈夫だろう。




