精霊様、そして声
聖樹は自らが光を発しているのではと思えるほど、神々しい。
事実薄っすらと光っている。これは精霊様の魔力による物だと考えられている。
その聖樹の前まで来ると、ドライアドは跪き、頭を垂れた。
ワシらもそれに続いて跪き、頭を垂れる。
「エルフの長様を連れて参りました」
『ありがとう』
ドライアドの凛とした声の後にどこからともなく、可愛らしい声が森に響く。
しかし辺りを見回してもその声の主の姿は見当たらない。
では、誰の声なのか?
そんなの決まっている。
「それで、ワシはなぜ呼ばれたのですか?精霊様」
ワシが問う。
『......ソナタ等の里にやって来た者に訊きたい事がある』
その返答は少し遅れて、返ってきた。
やはり、侵入者たちのことか。あれだけ被害を出したのだ、当然か。
「はい。あの者らの侵入を許したばかりか、甚大な被害を出したこと、誠に申し訳ございませんでした」
『........』
「さらには侵入者を取り逃しただけでなく、忌み子...異形の者まで里に招き入れてしまったこと。なんとお詫びして良いやら。勝手ながらではありますが、どうかこの身一つで何卒、お許しくださいませ」
『......』
「───っ、異形の者と侵入者の男はすぐに処刑致します。ですのでどうか、どうかお許しを....」
『......』
うぅ、精霊様が何も言ってくださらないのが辛い。
正直あの女と渡り合え、毒も効かないような男を殺せるとはもう思っていない。
しかし出来なくてとも弁明を述べなければ本当に我々は見放されてしまう。
精霊様に見放されれば、精霊様の加護が受けられないのはもちろんドライアドすら敵に回りかねない。
というかそもそもこの森に住み続けることすら出来ない。
だから頼むから何か言って欲しい。
『.....ソナタの申す侵入者の男とは、ソナタ等の後ろにいる彼の事かい?』
「っ⁉︎」
精霊様にそう指摘され、ばっと後ろに振り返る。
そこには....誰もいない。
精霊様の言葉に疑問を抱いていると、先ほどの精霊様と同じようにどこからともなくあの青年の声が聴こえる。
ワシの行動が不審に思い、他の者たちもそちらの方を向いたが、首を傾げるだけ。
「よく分かったな。完全に気配は消したつもりだったんだけどな」
「「「「「「「っ⁉︎」」」」」」」」
そう言い終えると、我々の目の前に青年が急に現れた。
まるで今まで姿が消えていたかのようだ。
そんな驚いている我々を他所に、青年は聖樹へと歩みを進める。
しかし今の彼は先ほどと恰好が少し違う。
何かの、鱗のような物がびっしりと貼りついたローブを羽織っていた。
カレメローンの鱗を使ったローブである。
しかしそれを発動させていても、精霊は東を見つけ出した。
そのことに東は不信感と訝しみを感じながら、ゆっくりと上を見上げた。聖樹の下腹部辺りを。
何を見ておるのじゃ?
そちらに視線を向けるが、何もいない。
本当に一体、何...を......っ‼︎⁉︎
待てっ!待て待て待て待てっ‼︎今、あの男、精霊様の“声”に反応しなかったかっ‼︎⁉︎
そんなのはあり得ないだろっ!
だって、だって....エルフの長を務めるには民の信頼と、そして精霊様の“声”を聴ける者のみなのだぞっ⁉︎
頑張って....下さい......




