体術で、そして剣で
「そんな状態で、私に挑むのかい?」
男は少々トーンの落ちた声で問うてきた。
どこか不満気な感じもするのだが、なぜ切った本人がそんな態度になるのかを訊きたい。
今も腕──主に凍らせたためだが──の激痛に耐えながら剣を構えている訳だが、正直凍らせたのは失敗だったと思っている。
痛みのせいで集中力が落ちてきている。
しかしそんなことを今言っていても仕方がない。
ましてやアドバンテージで取った左腕、それの回復をさせてくれるようなバカがいるはずない。
「安心しろ。この状態でも十分に戦えるからよ」
そうは言ったが、残念ながら十分にはいけないだろう。ある程度は苦戦すると思う。
それに手の方はまだしも腕の方は断面部分だけを凍らせているので、完全な腐敗措置や感染症予防は出来ていない。
そもそもやり方なんて知らない。
だから決着を早めに着けるしかない。
この剣も一度折れればまた折れる可能性も大いにある。
だから剣劇はなるべく避けよう。
そうなると方法は、これでいくか。
そう決めて地面を蹴る。
「っ、ふうっ!」
「っと!」
剣を左下から右上に振り上げるフェイントをしてから、剣の影に隠して凍った状態の腕で殴りにかかったがギリギリの所で避けられてしまった。
さすがにそう簡単に殴らせてはもらえないか....
「そんな腕で殴ってくるなんて、ねっ。そっちもただじゃ、すまないんだよ?」
そう普通に話かける感じしゃべりながら、彼は攻撃して来た。
それを避け、流しながらこちらも反撃する。
流しならばさほど剣へのダメージは少ない。攻撃は剣も使うがだいたいは体術での反撃だ。
剣も混ぜなくては剣の存在を無視して戦われてしまうからだが、彼とてそんなことはしないだろう。
「分かった上でだっ!」
「ふっ」
再び地面を蹴り、間合いを詰め剣での突きを繰り出す。
それをやはり相手も避け、流し、そして剣の腹で受け止めた。だが、それはこちらも予想していた。
「だからとっとと捕まってくれや」
「くっ!」
突きの動作のまま剣を左から右へ軽めに振る。そしてその身体の流れを利用して、左足の回し蹴りを彼の脇腹に喰らわせることが出来た。
こういう時『ウォーミル』や『麻痺』が足でも使えたらと思う。
そんなことよりも一撃決めれたのだ、このチャンスを逃す訳にはいかない。
身を後ろ倒すように飛び、さらに身体を捻って下から剣を走らせる。
「⁉︎」
「はぁっ!」
「ぐはあっ⁉︎」
しかし剣から伝わって来るはずの手応えを感じなかった。
そのまま身体は宙を舞った。
それを見逃すことなく、彼は俺の背中を剣で貫いて…こず、先ほどのお返しとばかりに蹴りを叩き込んできた。
ガードも叶わず、蹴りの威力によって二メートル以上は吹っ飛ばされた。
最初の落下は受け身で耐え、そしてすぐさま起き上がる。
まだ背中がズキズキするが、剣よりはマシな痛みだろう。
それにしてもなぜ剣で来なかったんだ?それに当たらなかった理由も分からない。
早く決着を着けたかったのだが、まだまだかかりそうだな。




