喧嘩、そして圧倒的な美女
「ふむ、どうやらまだいらっしゃらないようですね。果て、どう致しましょうか....」
そう初老が独り言を呟く。
すると周りにいる男たちが次々と口を開く。
「もうおっ始めましょうっ!」
「「「「「「「「そうだ!そうだ!」」」」」」」」
「早く犯してえぇっ!」
「テメェら!俺が、あの気の強そうなガキを最初に犯しまくって、堕としてやる!だから手ぇ、出すんじゃねえぞ!」
「はあー?僕もあの子、狙ってんだ。勝手な真似するな!」
「へっ、テメェみてえな童貞野郎にああいうタイプが堕とせっかよ。俺がガバガバにしといてやるから最初はそういう奴で慣らしとけよ、童貞君。ガハハハッ!」
「むっ、僕のテクを舐めんなよ!前の店じゃ、僕のテクは好評だったんだ。どんな女も僕の前じゃ──」
「そういう御託は良いんだよ。なあ、マジでおっ始めましょうぜ?俺のが疼いて、痛えんだよ」
「おいっ!僕との話が終わってないだろっ!」
急に話を逸らされ、さらに憤慨する周りで一番若く見える青年、東と同じくらいの歳だろう。
そんな彼が騒ぎ、喧嘩相手の額を汗で光らせている中年の男が初老の方を向いてしまっている。
その彼に掴みかかろうとした青年をすかさず周りが取り押さえる。
一見喧嘩の仲裁をしているように見えるが、実際は初老の判断が気になるためその邪魔者を抑えているだけである。
「うーむ...しかしあのお方がいらっしゃらない限り、私の独断で決定する訳には───」
「アタシなら、もう居るわよ」
「「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」」」」」
初老が返答に悩んでいると上の方から鈴の音のような声が聞こえた。
その声のした方に全員の視線が向く。
そこには玉座に坐する美女の姿があった。
炎のように艶やかな深紅の髪に海を彷彿とさせる碧眼、キリも細く白い肌なのだがその彼女よりも美しい。
顔も整っており、その雰囲気から王女たちの持つ威厳のようなものを感じる。
日本には美人を表す際に「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と言われている。
その言葉がこちらの世界にもあれば、それは紛うことなき彼女のための言葉であると断言出来さえする。
その美しさを目の当たりにした全員は思った。『彼女は今まで見てきた美女たちが霞むほどの美しさである』と。
女であるキリたちでさえ見惚れていたが、サナとニーナが少し遅れて周りに立ち込める臭いによって我に返る。
しかし二人は周りの光景に恐怖を覚えた。
先ほどまで自分たち同様直立不動で美女を見惚れていたはずの男たちが、次々と自ら膝を着き、頭を垂れていくのだ。
ましてや隠れていなくてはならない観客席の者たちまでもが堂々と姿を見せて、頭を垂れてしまっている。
そう、それはまるで女神の御前にいるかのように....
その光景に身の危険を感じ再度警戒をしながらキリの正気を戻す。
「キリっ、キリっ!しっかりして!」
「......っ!」
数回彼女の肩を揺さぶると、なんとか正気を戻させることが出来た。
そして彼女も周りの光景に物怖じする。
「どういう状況なの、これ....」
「分からない。でも、あの女が何かしたのは間違いないわ」
そう言って視線を女の方へと向ける。
女は、ただこちらを睥睨しているだけ。その姿勢はやはり王者のもの。
しかし彼女からそれほどの威厳を感じるのだが、なぜか彼女が怖いとは感じないのだ。無理矢理威厳を保っているように感じられる。
それは三人とも本物の王の御前に立ったことがあるから分かり得たことだった。
普通の者では感じ取ることの出来ないその違和感に、三人は感じ取ることが出来たのだ。
そう女へ疑問を抱いていると、彼女は厳かに口を開いた。
「さあ、愉しい遊戯を始めましょう」
そう女は妖艶に微笑んで、その美しい音色の声を奏でた。




