不穏な建物、そして受け付け
三人が男たちに連れられ数十分くらいした頃に途中の道で馬車に乗せられ、さらに一日と数時間。
そこに着いた頃には既に二日目の朝を迎えていた。
彼女らが連れて来られたのは森の奥深く。そこにはその場所には似つかわしくない様の建物が建っていた。
三階建てで一見派手に見える飾りつけも、派手過ぎず地味過ぎない装飾で施されている。
なぜか看板がかけられておりそこには『甘い蜜味〜ラブーン〜』とピンク色の柔らかな字で書かれていた。
また、周りからほのかに香る甘い匂い。そして何より、ここに着いてから男たちから発せられていた臭いが強まった。
そのことに二人の獣人が顔をしかめている中、男たちはその建物の中へと入って行く。
建物に入ってすぐの所にあったのは、受け付けであった。
その受け付けの奥にはこちらにいる初老よりも少々歳のいった老人が和かな笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
「これはこれは、マーチ様、ご無沙汰しております」
そう受け付けの老人がゴマを擦りの際にやる両手を合わせて揉み合わせをしながら姿勢を低くして、初老の男に挨拶してきた。
分かり易い媚びである。
「地下四の鍵をくだされ」
「地下、四っ⁉︎」
その媚びに慣れているのか初老の男は用件だけをさらりと述べた。それとは反した反応で、初老の男の用件を聞いた受け付けは驚愕の表情を浮かべた。
「その娘達が相手ですか?」
「ええ。何か問題でも?」
「い、いえっ!た、ただ...その娘達の身体が、保つのかと思いまして。観た感じ生娘っぽいので」
「問題ありません。私達はあくまで彼女達をそこに連れて来いと言われているだけです。貴方もそう聞いているはずでは?」
「私は“マーチが新しい女共を連れて来る”と聞いていたので。まさか地下四に行かれるとは....」
「そうでしたか。まあ、それでも良いでしょう。頂けますか?」
「あっ、はい!申し訳ありませんでした!」
受け付けは慌てて後ろの壁から鍵を取り、それを渡すのかと思いきや今度はそれを持って、こちらから見える範囲から抜けてガチャンっという音が聴こえた。
そこからしばらくガチャガチャと金属の音が鳴ったかと思うと、少々汗ばんだ受け付けの老人が銀色に輝く物を持ってこちらに顔を見せた。
「お....っん、お待たせしました。こちら、地下四の鍵です」
荒い息を殺しながら笑顔で述べる老人の手には鍵が握られていた。
「ありがとうございます」
それをなんとも思っていないのか、初老の男はすっと手を差し出した。
「......」
しかしすぐに渡されると思われていた鍵は、なかなか老人の手から離れずにいた。
「どうかなさいましたか?」
それに疑問を抱いたのか初老の男が訊いた。
その質問に少し遅れて、老人が口を開く。
「えーっと、ですねー...そのぉー.....」
「....なんでしょうか?私は急いでいるのですが?」
言い淀んでいる老人にイラだったのか、今までよりも少しトーンが低くして初老が促す。
すると老人は申し訳なさそうに口を開いた。
「わ、私にもすこーし、少しですよ?少しで良いので...味見させて頂けませんか?」
「.....」
そう言いながら人差し指と親指を動かして控えめな感じを表す。
その際チラっと三人の方を、さらにニーナを見た時は口元をにぃーっと釣り上げた。
それに思わず三人がぶるりと震え上がった。
「....まあ、あの方が好きにしろと言われましたら、好きなだけどうぞ」
「っ!、ありがとうございます!」
呆れ半分でため息混じりにそう告げると、老人は頭を深く下げて鍵を渡した。
多分私、受け付けの老人みたいな人を書くのが好きなのかもですね。




