心配、そして言い知れぬ不安
視点変更
東とユキナが村を出てすぐにキリたちもまた、もう一つ反応があったエルフの里であろう先へ向かおうとしていた。
「行ってきますね」
「復興、頑張ってね」
「じゃあね、モアちゃん」
順々に少女に別れを告げてから部屋を出ようとした。
しかし出て行こうとするキリの手が掴まれる。振り返ればモアが驚愕の表情でキリに手を伸ばしていた。
「どうかした?」
キリが柔らかく微笑みながら聞き返すが、モアは口をパクパクとさせている。
それを見たキリは屈んで少女と目線を合わせ、そしてそっと彼女の頭の上に手を置く。
「大丈夫、ゆっくりで良いよ」
そう微笑んで、少女の頭を撫でる。
それを入り口の辺りから見ていたサナとニーナが少女の口角が少し緩んだのを確かに捉えた。
「帰ってきてね」
「ええ、もちろん」
途中でキリたち冒険者を突っぱねるような態度だったのに、今では彼女らを心配してくれている。
そう考えると誤解が解けたようで嬉しい限りである。
少女が掴んでいた手を離してくれたので、キリも立ち上がりサナたちの元へと向かう。
そして全員で手を振ってから部屋を後にする。
遠ざかっていく足音を聴きながら少女は服の端を拳でギュッと握り呟く。
「絶対、帰ってきてよね....コマチュリ草、まだ見つけられていないんだから....」
そんな少女の望みは彼女以外に誰もいない室内で虚しく消え去った。
しかしいつまでも突っ立ったまなではいられないので、彼女は作りかけていた薬の調合を再開するために部屋を移動する。
「?」
薬作りを再開しようと材料を揃えていると不意に外からの騒がしい声が耳に届いた。
______________
キリたちがモアと別れ、村からかなりの距離が開いた辺りで唐突にキリが止まった。
それに気がついた先頭の二人が足を止めて振り返る。
そこには不安そうな表情で先ほどの村の方角を見つめている彼女の姿があった。
「どうしたの?」
サナが尋ねるとキリはゆっくりと彼女らの方を向く。
「なんだか嫌な予感がするの」
それは静かに、しかし重たい声で返ってきた。
「嫌な予感って、具体的には?」
曖昧な答えだったのと彼女の様子が気になり、サナが再度尋ねるとキリは首を横に振る。
「分からないの。でも、何かがあの村で起こっている気がするの」
「能力を使ってみては、どうですか?」
「試したいけど、まだ使える分まで魔力が回復しきっていなくて。だからあんまり確証が持てないの....」
キリは視線を二人から再び村の方へと向き直す。やはり彼女の表情は不安げだ。
彼女の固有能力の『直感』は『迅速』に比べて使う魔力が少なく、また元からどちらも魔力量の少ないキリが十分に扱えるほどの魔力で済むレベルだ。
その『直感』が使えないほど、先の戦闘で使った魔力が多いのだ。
しかしその実、後数分もあれば使用可能になるまで回復する。
それは彼女自身が一番分かっているのだが、今彼女が抱いている言い知れぬ不安感がどうにも気になってしまうのだ。
それは彼女の能力による影響か、それとも彼女自身の剣士としての勘からか、はたまた潜在能力か。
何れにせよ、その能力による結果ということだけは理解出来た。
ならば後は自分で選ぶのみである。
従うか逆らうか。
この二択のどちらかを自分で決めればそれで終わる。
ただ彼女はそれを決めかねているのだ。
理由は簡単だ。“村へ向かって良いのか”。彼女はそう思っている。
東たちがどれくらいかかるのか不明であり、なおかつ彼女らはさらに時間のかかる方へと向かわねばならない状態。
そんな中、自分の確証のない不安感だけのために時間を割くのはどうなのかと思った。
しかし彼女はそう思っていながらも足を止めて振り返ってしまったのだ。
そんな状態だと理解していても彼女の本能が足を止めさせたのだ。
まるで、そうしなければ取り返しのつかない何かが起こってしまうとでも感じたかのように....




