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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第17章 リリーの真偽
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脱獄、そしてナシャージャ

 

 その足音が自分の独房の前辺りまで来た所で止まる。


「ギャァージャー」


 すると水の詰まった排水管から声を発したような声が聴こえたかと思うと何かが蒸発するような音が僅かに聞こえる。

 それが数秒ほど続くと薄っすらと暗くはあるが、一筋の光が独房内に刺す。

 しかし彼にとってはそれだけで十分だった。

 目がその光で独房内の暗闇に目を慣らし、ある程度見えるようにしてから眼に魔力を流す。

 すると僅かに空いた穴の内部からウネウネを(うごめ)く虫が現れ、壁を徐々に食い破り始める。

 食い破った穴からはさらに虫が湧き、蠢きあっている。

 そしてものの数秒で頑丈に造られていた独房の壁に人が出入り出来るほどの穴が空いた。


「やあ」


 壁の向こうには爽やかな笑みを浮かべ、数体の魔獣を連れた男、バジルが出迎えた。


「御手数をお掛けして、申し訳ございません」


 ラグナロは開口一番にそう告げ、深々と礼をする。


「気にしなくて良いよ。ちょうど、この国の事を知りたいと思っていた所だったからね」

「ありがとうございます」


 バジルが(なだ)めるも、ラグナロは礼をしたままの体勢だ。

 その態度にバジルは苦笑を浮かべ、踵を返す。少し遅れてラグナロも彼に続く。

 互いに何も話さず、ただ二人の足音と地を()うナメクジをバスケットボールほどにまで肥大化させたような魔獣が進む度にクチャクチャという音が響く。

 その魔獣が通った床には薄っすらとだが光って見える。

 触れようとは考えないがそれが正解ともいえる。

 この魔獣の名前は“サンナンチュウ”といい、その体液には弱アルカリ性の効果がある。

 最悪の場合皮膚が溶けかねないのだから。

 さらに少し進むと階段が現れた。


「そういえば君が捕まったのは、ギルドから派遣された冒険者達って報告を受けているけど、そんなに強かったのかい?」


 バジルはまるで世間話とでも言わんばかりの軽い調子で訊く。

 ラグナロは数ヶ月前に起こった事を省みる。あの少年(あずま)の事を思い出し、思わず奥歯を鳴らしてしまう。

 それはバジルにも聴こえてはいたが、彼は特に触れずにラグナロがどう答えるのかを楽しみに待つ。

 少し考えた後、ラグナロは厳かに言葉を告げる。


「強かった、のだと思います──」


 しかし彼の答えはバジルが予想していたものとは違った。

 否、正確には少し違ったのだ。

 そのため驚愕した反面何故そう答えたのかに対する興味が彼の中に沸き出た。


「思うとは、どういう事だい?」


 ラグナロはしばしの間再び黙り、そして階段を上り進めいた足を止めた。

 バジルもまた、足を止めて振り返る。その表情は柔らかな笑みを浮かべている。


「....私にも何故自分がやられたのか分からないのです」

「分からない?そんな事が有り得るのかい?」

「彼に会うまでの私でしたら“ない”と断言していたでしょう...しかし世界は広かったようで、気がつけば私はこの眼を使うどころか動く事すらままなりませんでした....」


 そうラグナロは悲しそうな、しかし悔しさと不可解さで複雑な表情を浮かべている。

 バジルはバジルで口端を吊り上げ、再び階段を上り始めながら彼の話について考え込む。


「やっぱり彼は恐ろしく強いね。彼女、上手く達成出来るのかなぁー」


 階段を上り切り、七階層へ到着する。

 するとそこには入って来る時はいなかったはずの看守と目があった。


「なっ⁉︎き、貴様ら!どうやって牢を出た!」


 看守が叫びながら短剣を取り出す。


「....!ま、ま、まさ...か.....まさか貴様が連れているのは──⁉︎」


 看守が目を凝らしよく彼らを見ると、驚愕の表情を浮かべてバジルの方を指差す。

 彼がこの反応を示すのも無理はない。

 バジルは二匹(・・)の魔獣を連れているのだから。


「ん、おやナージャ、寝てしまったのかい」


 そう彼の肩で眠りについた孔雀のような見た目の魔獣、“ナシャージャ”という魔獣に柔らかに告げる。

 彼の者(ナシャージャ)は本来、寝ている時のみ種の能力が発動するという特殊な魔獣なのだ。

 その能力は『イン・ビルズ』という透明化の力。

 そのため彼らが眠っている時に他の者から狙われる事は(まれ)とされている。

 しかしバジルが連れているナシャージャ事、ナージャはさらにその中でも珍しい反転性の能力を持っていた。

 そう、彼が連れているナシャージャは起きている時のみ発動する。

 バジルは自身の固有能力で友となったため、その魔獣の効果を自身にも反映させる事を可能にしたため、ここまで侵入出来たのだ。

 では今回は何故使っていないのか?という疑問を浮かべるだろうが、これは『友』となったバジルにしか反映されないのだ。


「ここは私が相手致します」

「そう。ならお願いするよ」


 ラグナロの提案にバジルはあっさりと承諾した。元々彼は戦闘タイプではないのだから当然とも言える。

 ラグナロがバジルの前に立つ。

 すると看守が更なる驚愕の表情を浮かべる。


「なっ⁉︎なななな、何故...何故貴様が抜け出している!!!」


 怒号とも思える勢いで看守が叫ぶ。

 その見開かれた視線の先はラグナロを捉えていた。そしてそれと同時に彼が魔具である眼が隠されていない事を理解した。



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