警備隊、そして失敬
エルフたちの様子を窺っていると話が着いたのか一人のエルフ、ショートカットで少し毛を逆立たせたような髪型のエルフが里の方へと木伝いで走って行った。
彼の表情を見る限り歓迎はされていないな。
しかし歓迎を受けようが受けまいが、こちらの目的はここにあると願っている魔道具。
それを手に入れるまではあまり悪目立ちする訳にはいかない。
ここは彼らの様子見だな。下手に進むよりはそちらの方が色々と安全だろう。
チラッと視線を男の方に移す。
先ほどから彼も動こうとはしていない。表情は見えない位置だが、動かないということは多分彼も同じ考えなのだろう。
次に視線をユキナへ移す。
彼女も動こうとはしていないが、その表情は強張っている。
感情を表に出さないようにしているのだろうが、そのせいで逆に強張ってしまっているようだ。
まあ、でも覚悟していても、いざ着いてしまうと不安を覚えてしまうのは無理ないことだろう。
.....それにしてもさっきから誰かに観られている感じがして気持ち悪いな。
木の上にいるエルフたちではなく別の、しかし不思議と視線の場所や気配が感じられない。
だから余計に気持ち悪いのだ。
視線の正体を探しながらエルフたちを待つこと三分ほどで、今度は武装状態のエルフ七名がこちらへと向かって来る。
よく見れば全員が男だというのが分かる。
まあ呼ばれざる客なので、仕方のないことだろう。
そして当然というかなんというか全員弓矢を携えている。
剣の間合い程度は離れた位置で彼らは止まった。
「旅の御方々、ここへは何の御用でしょうかっ?」
中央にいたセミロングほどの金髪をポニーテールのように結んでいるエルフが声を上げる。
さて、素直に答えた所で受け入れてもらえるはずもない。かと言って偶然と言ってしまえば追い返されるだけだろう。
どうしたものか....
「私はとある御方よりこちらの里の長に手紙を渡すよう仰せつかった使いの者だ!通してもらいたい!」
何と答えるべきか考えていると男が声を上げて答えた。
なるほど、エルフの里はそういう理由で来たのか。
ならここは様子見といこう。
「とある御方ぁ?そいつの名を言え!もしくはその手紙とやらをこちらへ渡せ!」
すると先に声を上げたのは中央のエルフではなく、その彼から見て右から二人目の少々目つきの鋭い前髪がM字型に開いている髪型の男だった。
どういう手入れしたらそうなるかを教えて欲しい形だ。
と、そこではなく、いくら招かれざる客相手とはいえこの態度はどうなのだろうか?
「っ、ボライン!その言い方はなんだ!長様への使い人に失礼だぞ!」
すると血相を変え、中央の男から見て左から二人目、ボラインと呼ばれたエルフと対照の位置にいる男が怒鳴る。
こちらはボブカットくらいの長さだが、横だけ伸ばしているようで顎の辺りまで伸びている。
「うるせえ!以前もそう言って長様を捕らえようとした不届き者がいたんだぞ!警戒すんのは当然だろうが!」
「だからと言ってその態度は目に余る!もしあの使いの者が長様の旧友様であった場合、貴様、どう責任を取るつもりだ!」
「っ、そん時は...そん時に考える」
「貴様というやつは──」
「だったらよぉー、身体のどっか探しゃ見つかるだろうから、探せば良いじゃねぇーの?猪の痣をさー」
「「⁉︎」」
突然言い争いを始めた二人。
そこに割り込んで中央の男から見て右端の周りのエルフよりも少々背が高く、ガタイのしっかりした男が笑いながら言った。
その最後の言葉。それは猪の痣の印。
「喧しいぞっ!ボイラン!ヨハン!」
驚愕していると中央の男が二人を注意する。
「マース、君も余計な事を言わなくて良い」
「はぁい」
「あちらの方にも謝りたまえ」
「「「申し訳ありません」」」
中央の男が諭すように注意し、促すと名を呼ばれた三人が声を揃えて謝罪を述べた。
「私からも謝らせて頂きたい。私の部下が不敬な事を言ってしまった事、申し訳ありません。これからはこのような事がないようにしますので、何卒お許し願いたい限りです」
そう弓を下げ、深々と頭を下げて謝罪をする。
許してください、か。良い根性をしている。
弓を下げて謝罪はしているが矢をいつでも射抜けるようにしているし、完全に構えまで解いていない。
つまり謝ってはいるがこちらを信じていないし、心から謝罪する気もない。ただの口だけ。
今述べておいて、一番不敬なのはどっちだよ。
本当に良い根性をしている。




