後悔、そして願い
少女はニーナによって知らされたことに驚愕していたが、すぐにそれはなくなり代わりに嘲笑の笑みを浮かべる。
「あはは、そんなの信じる訳ないじゃない──」
当然の返答である。
ダンジョン攻略したと言っても簡単に信じる者は皆無に等しい。
攻略者である証である紋章を見せたとしても早々信じはしない。王宮で信じられたのは、その紋章について記されていたからに過ぎない。
そのことはニーナも考えていた。
何せ、自分も一度経験した反応なのでそれは安易に想像出来た。
ただ彼女は東が攻略者であることを知る前に彼の実力を目にしていたので、まだ信憑性を持てた。
しかしそれを目にしていない少女は全くを持って信じられない。
「.....」
「.....何も言い返さないって事は図星なんでしょ?....やっぱり冒険者は嘘つきじゃない!絶対に信じない!」
そう言われニーナはついカッとなってしまったために状況が悪くなってしまったことを悔いていた。
いつも姉のサナが似たような失敗を目の当たりにしているため『自分だけはいつも冷静に』と心がけていたつもりだった。
しかし東のことを目の前でバカにされて黙っていられるほど、その行為を軽視出来なかった。
それは彼女だけではなかった。
「ふーん、アズマの事、そんな風に思ってたの」
「⁉︎」
背後からの声に振り返ると、そこにはキリがいた。
しかしその表情は疲れではなく敵視に近い表情で少女を睨んでいた。
「な、何よ!どうせ本当の事なんでしょ!あんな男がダンジョン攻略なんて出来るはずない!──それとも知らないの?ダンジョンは王国騎士団でさえ未だに攻略出来ないほどなの。それを冒険者のあの男に攻略出来るはずがない!」
「冒険者だからってなんで攻略出来ないと思うの?王国騎士団の中には腕の良い冒険者から成り立った者も多々いるわよ?」
「でもそんな人達じゃ大体隊の俸上には所属出来ないでしょ」
「それは実力じゃなく、身分の問題よ。大体隊の俸上騎士の半数以上は貴族の息子が勤めているの。その下の俸下騎士に冒険者からや自らの希望で入団した者が勤めているわ。だからそれは仕方がない事よ」
「.....」
「それと知らないのはあなたの方じゃないの?」
「⁉︎」
少女がキリに言い返せなくなった所でサナが木陰から姿を現す。
「な、何を知らないって言うの?」
「約一年前にダンジョンが攻略されたの。その報道にはしっかりと冒険者とその名が明記されていたはずよ」
「ん....そんなの、嘘に決まって....」
「王きゅ、うが証め、いしたの、に?」
いつの間にかユキナも到着していた。
サナとユキナは少女の行く手先を、ニーナとキリは少女の背後を取っていた。
これにより少女が再び走り出そうがすぐに追いつける形になった。
ユキナの言う王宮の証明とは俺とキリが王城に呼ばれてからしばらくして攻略者としてその名が報じられた時のことだろう。
王の名に置いての証明ってのは国民にとってそれだけで確信的らしいのだが、あの王様のどこにそんな信頼度があるのかが不明である。
それと本当は人相書きなども描かれる予定だったそうだが、そこまでしなくてもっと思ったので断った。
元々そこまで好きではないので。
そのためなのか面倒な時などに攻略者であると言ってもあまり信じられていない。
ランクを言っても同じなので信用されないことが多い。
胡散臭く思われるのは自分の判断でこうなったので仕方ないが、ここまで信用されないのは意外だった。
「確かに冒険者の中には、あなたが会ってきたような酷い人もいるわ。でも、だからと言って冒険者の全てがそんな人達だけとは思わないで」
「ええ、冒険者の中にはちゃんとした人だって多くいるし、ダンジョンを攻略出来るほどの王宮が認める冒険者もいるの。だから頑に冒険者は嘘つきだなんて決めつけないで欲しいの」
キリとサナが心から願っていることをありのまま少女に告げた。




