コマチュリ草、そして魔獣除けの香
手伝う理由は彼女を一人にするとマダルノ蛇が現れた時に対処出来ないから。
という表向きの理由を彼女に説明し、納得してもらった。
しかし本当の理由はさっさと終わらせて家に向かって欲しいのだ。
ゲートを見られて騒がれるより手伝う方が良いだろう。
そういう訳で手伝っているのだが、彼女が探そうとしていた薬草を探すのに全員が難儀していた。
薬草の名前は“コマチュリ草”という。
草、とつけられているが実際に薬として使われるのはコマチュリ草の花弁。
まあなぜそう名づけられているのかはあまり詳しくは知らないので置いておこう。
さてこのコマチュリ草だがまず日当たりが良くない栄養の豊富な水捌けの良い場所に生息という難しい条件なのだ。
さらに採れる数もかなり少ない。
条件を満たしていて見つけられたとしても多分採れて成人男性の片手に収まる程度だ。
だが当然、これだけ入手が困難かつ数が少ないとその分かなりの金額で売買される。
最初に薬草の名前を聞いた時はもしかしてと思ったがその後に続けられた「この薬草って結構すごい薬になるんだよ?復興って結構怪我する人、多いんだよね。だから今のうちに見つけておきたいんだよね」と。
なるほどと納得した。
今のうちに、という所で思い出したがコマチュリ草は初夏にのみ生える。
そしてもう時期それが終わる。
薬草についての効能までは知らないがかなりの高性能な回復効果を持っているのは聞いたことがある。
多分治癒核に劣らないほどの。
治癒核は注がれた魔力の分だけその効果が高まる。しかし大きさによって魔力を流せる許容量があるので消費も大きい。
またこの核を手に入れるだけでも相当苦労する。
ダンジョンに行けばその核を持った魔獣には出会えるが、赤以上は必要だ。
対してコマチュリ草の薬は知識が伴われる代わりに魔力を必要とせず、誰にでも扱える。
コマチュリ草を入手が叶えば、だが。
「キリ、分かりそうか?」
「大丈夫。もう少しで分かる気がする」
しかし見つけにくいというのはキリにとってはなんら問題ないことだ。
さっきのエルフの里の場所を探すために使った魔力は、既に回復してあるので多分探せるだろう。
「.....!あっち」
そうキリが指差したのは先ほど彼女がエルフの里があるかもと示した、村側だった。
これはありがたい。
「おーい!多分あっちの方に生えてる。行ってみないか?」
少し離れた場所で薬草を探している少女に声をかける。
その声に反応して振り返った彼女が俺の指している方角を見てから、再びこちらに視線を戻した少女。
顎に手を置きうーん、と唸っている。何か考え込んでいるようだ。
「あっちは最初の頃にちゃんと探したから多分ないと思うよ」
そう彼女は言いながらこちらに歩いてくる。
「見落とした場所とかは?」
「ない。あたし、結構物覚え良い方だからちゃんと隅々まで探したわ」
少女は少しむっとして答えた。
多分俺の質問が気に障ったのだろう。
しかし言ってはなんだが多分見落としがあるのではないかと思う。
キリの能力を的中率は確かだ。先ほどのやつを抜きにしてもほぼ百パーセント。
なのでコマチュリ草は村側に生えている。
少女を納得させるにはキリの能力について説明した方が早い。
しかしそうしてあちらで見つけてしまえば彼女のプライドに傷がつくだろう。別にそれを癒す必要はないと思うが後味が悪いというか、居た堪れない。
今はエルフの里へ行くことが優先なのだが、この少女を傷つける必要はない。
だが、この娘がいなければどれがコマチュリ草なのか判別出来ない。薬草などは見分けにくいのが難点だ。
俺たちはそこまで薬草に詳しい訳ではない。
ニーナやユキナならとも思ったが、残念ながら両者ともコマチュリ草は見たことがないそうだ。
さて、どうしたものか。
「それよりもあたしはあっちの方に生えてると思ってるの。でもこれ以上進むと魔獣が出そうだから、ついてきてくれない?」
そう言い少女は俺が指した村側のほぼ反対の方を指した。
これはまた、偶然なのだろうか?
そう思わずにはいられないほど、今現れた二つの方角に驚いている。
「....村側の方は隅々までって言っていたけど、その時魔獣は出なかったのか?」
「出たよ。でもちゃんと魔獣除けの香を焚きながら探してたから、なんにも襲って来なかったわ」
「なら反対を探す時も焚けばいいじゃないか?」
「それはダメ。今の時間だと風が村の方に流れてるから香は使えない。大人とかには特に影響ないけど、あたしよりも小さい子達には毒だから」
「なら一応、サナとニーナは別行動の方がいいな」
「そうね、あたしも獣人に影響が出るのかは知らないから、そうしてくれると助かるわ」
少女も納得してくれたようだ。
やっぱり理解しているみたいだな。
「それと、子どもに毒というのなら君もあまり使うのは止めた方がいい」
「あたしなら大丈夫よ。色々な薬を試しているから、耐性も強いの」
「それでも、だ。そんな香を使うなら村の大人に頼むか少々値はかかるが冒険者に依頼するかした方がいい」
「無理言わないで!今、村はただでさえ忙しいのにあたしのわがままに付き合ってるくれる訳ないでしょ!お金だってないし!」
「だからと言って毒の香を焚いていたらいつか君自身が危ないんだ。それは耐性が強くても同じだ。現に、蓄積され続けた毒を君は完全に浄化出来ていないだろ!」
「⁉︎....なんで、知って.....」
少女は俺の返しに驚きを隠せずにいた。
『魔眼』で見えているのだ。彼女の身体から出ている霧の中に、薄っすらと漂っている毒の詳細が。




