不可解、そして撤退
かなり長い間、二人は剣と剣をぶつけ合っていた。
辺りに生えていた木々は二人の剣撃の間の障害物として切り捨てられ、それでもなお止まることなく二人の打ち合いは続いていた。
この打ち合いに置いては能力は使わず、ただの己の技量のみで打ち合っていた。
彼との打ち合いは身体中がゾクゾクして脳の天辺まで痺れる感じがする。でも、それ以上に彼の事が気になって仕方がない。
どうやったらそう動けるの?とか、何回フェイントを入れたの?とか、空中でなんで自在に動けているの?って何度も思った。
でもそれ以上に、さっき私は確かに彼の右肩を貫いた。
一瞬の小さな悲痛の声と苦痛に歪めた顔を見た時は思わず舌舐めずりをしていた。それに下がムズムズしちゃった。
でも彼はその貫かれた方の腕でさらに剣を振ってきた。
それに反応が遅れて服が裂け、少量だけど血が流れた。
なんで動かせるの?肩の骨ギリギリの筋肉、その筋肉が縮んだ時を見極めて貫かせたからもう腕を上げる事は無理なはずなのになんで動かして私を斬れたの?
「もういい加減にしてくれ、そのワイバーンがペットなんだったら討伐しないけど、このまま街の方へ行く気なら無理にでも止める。これじゃあダメか?」
彼の行動について考えていると彼はいきなり、そう提案してきた。
「嫌よ」
私は即答した。
それにより彼の表情は不満気で眉を潜めた。
あー、その顔も素敵!
断った理由なんて簡単。まだまだ私は彼とやり合いたいの、だから今の提案は受け入れられない。
そう思っていた時だった。
「ギィギャアァァァッ!」
「「ガァギャアァァァッ!!」」
「⁉︎」
「!」
背後にいるワイバーンが特殊な鳴きを上げるとそれに共鳴するように左右から二つの鳴きが上がった。
嘘っ⁉︎もうそんな時間⁉︎
そう驚いているとワイバーンがこちらに近づいて来た。
「!」
彼がそれに反応して剣を構え直した。その視線はワイバーンの方へと向いていた。
でもその視線はすぐにワイバーンを見失った。何故ならワイバーンが鳴きを上げた時に煙幕が漂い始めていたから、それにより視線は煙で遮られた。
私はレイピアを収め、ワイバーンへと走り出した。
そして地面を強く蹴りワイバーンの上へ乗る。するとワイバーンは身体を起こし、左右の翼を上げ、勢い良く羽ばたかせる。
「また会おうね」
彼に別れを告げると、私の乗るワイバーンは空を飛び上がった。そして真っ直ぐ飛び進む。
その方向には周りから飛び上がった残り二頭のワイバーンも同じ方向へ飛び進む。
「はぁー....」
途中で打ち合いを止めたのはこの後仕事が待ってるから。すぐにでも止めないとあいつに怒られて玩具達を没収されちゃう。
そう思いながらチラッとあいつが乗る後ろのワイバーンの方を見る。
その視線の先には東にオーメンという名で覚えられている男映る。
?玩具.....!そうじゃん!私、彼をお持ち帰りするのが今回の目的だったじゃんっ!ああぁぁぁぁーーー!やらかしたーー!せっかくの休みだったのにーっ!
もおー!まだまだ彼とやり合いたかったし!お持ち帰りでもう一回遊んでから壊したかったのにっ!
この不満は今から向かう仕事先でぶつけてやる!
そう決めて顔を上げ、ワイバーンが向かう仕事先、ネビュラの東にある裏商人が乗る船がある場所へ向かう。
後はこの子達が暴れれば終わりだけど、その前に少し私が遊ぼう。
「まったく、あんまり相手してる暇ないんだけどな」
「⁉︎」
そんな、と思いながら声のした上の方を見るとそこには、彼がいた。空中にいるのだ。
嘘っ⁉︎ワイバーン(このこ)のスピードに追いついて、さらにこの高さを超えて上へ飛んだの⁉︎
そんなのって、そんなのって....素敵ー!私の期待以上よ!アズマ!やっぱり貴方が欲しい!
実際は千里眼でどの方向へ行くかを見、ゲートで彼女らの先の少し上へ繋げただけである。
「落ちろ」
「「「グギャラァァァァッ⁉︎」」」
「「「「っ!」」」」
彼が一言言うと私達が乗っているワイバーンが急にバランスを悪くし、森へと落ち始めた。三頭共。
墜落する私達を観る彼の表情は哀れんでいる。
っっっっ!絶対に、
「絶対に貴方を手に入れるからねぇーっ!」
思わずそう叫んでしまった。
私達はそのまま地に叩きつけ、られるなんて事はなく全員体勢を整え着地する。
「まさか邪魔されるとは」
「アイツ強過ぎじゃないすか?」
「おめえ、投げられてたしな」
「うっさいすねぇ、あっしだって何がなんだか分からず気づいたら凄い力で投げられてたんすよ」
「その後、腹パン喰らいかけてたもんな」
「ギリで避けれやっしたが、あれは危なかったっすね。さっきも急に現れやしたし」
「そして急にワイバーンが動かなくなった。彼の能力でしょうが、これはしばらく動きそうにありませんね」
「え⁉︎じゃあまさか歩いて行くんでやすかっ⁈」
「いえ、これでは仕事続行は無理でしょう。計画を変更しますので、三日後になりますかね」
「うっへー、また仕事増えた」
「それで姐さん...その笑い止めてもらって良いかい?」
「え?」
仲間の一人、東にウィーネと覚えられている男から指摘され自分の顔を触ってみる。
すると口の端がかなり広がっているし、それに唇も湿っている。
「何時もよりイイ顔、でしたよ」
「あらら...ふふ、そうかも。彼の事ますます気に入ちゃった」
「手に入れるは骨が折れやすがね」
「あら、折って手に入るほど彼は簡単じゃないわよ。それに彼は半分くらいしか本気を出していなかったわ」
「「「....え?」」」
私の発言に三人は思わず驚きの声を漏らした。
やっぱり気づいてたのは私だけだったのね。上手く隠してたけど戦ってみると分かるものだもん。
次はいつ会えるのかなー。
その後彼女らは適当な会話しがなら森の闇へと消えて行った。




