表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その男、名探偵につき  作者: 小高まあな
第五章 名探偵の場合
PR
28/34

02

 茗ちゃんと再会した大学生のころ、恥ずかしながら俺は女遊びがかなり激しかった。

 もともと俺は実家の家族との折り合いが小さいころから悪かった。大病院の院長一家の長男として生まれ、跡取りになるはずだった。だけど、ガキの頃の俺はまあ勉強はできないわ、そのくせ探偵小説ばかり読み漁るわで、親を含め親戚の期待値はかなり低かった。姉が、なかなか優秀だったこともあるけど。

 あの家で俺を人間扱いしてくれていたのは、死んだじいさんだけだった。

 いろいろ不満がたまっていた俺は、大学受験の時に猛勉強した。そして、姉が通っていた大学よりも、さらに偏差値の高い大学の医学部にストレートで合格した。のを、入学手続きをわざと怠ってなかったことにした。

 あの時の両親や親戚の怒り狂い具合は、かなり面白かった。

 子供のころから貯めていた貯金と、じいさんの援助で家を出て一人暮らしを始め、一年遅れで法学部の大学生になった。

 言い訳だというのは十分わかっている。それでも、あの時俺は寂しかったんだ。そして、二十歳の、我ながらまあまあ良い顔と、達者な口を持つ男が寂しさを埋める手段として選んだのは、女性だった。

 とりあえず合意の上での関係で、お互いに遊びだったということだけは主張しておきたい。それにしたって、最低だとは思うけど。

 茗ちゃんと再会したのも、合コンの席でだった。人数合わせで呼ばれた茗ちゃんと違って、俺は最初から行く気満々だったし。まあ、あの合コンに関しては、行ってよかったと心底思うけど。

「渋谷慎吾……? もしかして、厳悟のおじいちゃん先生のところの、シン兄ちゃん……?」

 目の前の女の子から、じいさんと俺の懐かしい呼び名が登場した時は本気で驚いた。

「え、もしかして……」

「あ、はい。硯茗です。その……ご無沙汰してます」

 あの時以来、まったく連絡を取っていなかったけど、ひとまず元気そうで安心した。その場は取り繕って、合コンを続け、二次会はパスして彼女を連れて別の店に行った。他人には聞かれたくない話があったから。

「その、元気だった?」

「……おかげさまで」

 笑うけど、答えるまでの間でいろいろあったんだろうなと思った。

「法学部なんだよね。……ご両親のことで?」

「はい。弁護士に、なりたいと思って」

 でも、いろいろあったにしても、今は過去に向き合って弁護士になろうとしている。すごい子だなと思った。対して俺は、

「渋谷さんは、どうして法学部なんですか? お医者様になるんだとばっかり思っていましたけど」

「あー、実家は姉が継ぐから」

 俺は家から逃げて、探偵になりたいという夢みたいなことをほざきながら、なんとなく法学部に入っただけだった。

 近状報告とか、当たり障りのない話をして、そのあとは終わった。終電にぎりぎり滑り込む。

 メインの乗り換え駅を過ぎてしまえば、混雑は多少軽減される。空いた席に彼女を座らせ、たわいもない話をしていた。

「あ、次で降りますね」

 茗ちゃんが言った時、俺はそっか、とか言って笑った。

 気をつけて。またね、連絡するね。そう言って別れるつもりだった。最初は。

 だけど、またっていつだろうと思った。

 連絡して、この子はまた俺に会ってくれるのだろうか。つらい思いをした時に出会った、俺なんかに。

 そして、俺はこのまま帰って、今日は一人で眠らなければいけないのだろうか。

 この子を逃したらいけない。この子とだったら、真人間に戻れる。あの時、小さな女の子を守りたいと思った、あのまっすぐな心を今ならまだ取り戻せる。そんな風に考えたんだ。

 電車がホームに滑り込み、腰を浮かしかけた彼女を遮るように、

「茗ちゃん」

 名前を呼ぶと、顔を近づける。

 電車内だとか、そんなこと考えなかった。

 もしも泣いて嫌がられたら、諦めようとは思っていた。

 だけど茗ちゃんも目を閉じてくれたから、そのまま彼女の唇に自分の唇を重ねる。

 ドアが閉まったころ、唇を離し、

「終電、なくなっちゃったね。うちに来ない?」

 そう誘ってみた。彼女は小さく頷いた。

 今ならわかる。あの時の俺たちはお互いにあちらこちらに傷を負っていて、それを慰め合う相手が欲しかっただけだ。そしてお互いに、過去を知る人物は便利だったのだ。

 気持ちのメインは茗ちゃんになっていた。それでも、関係をちゃんと切らないままの女の子も何人かいた。あの頃の茗ちゃんが文句を言うことはなかったから、やっぱりあの時のあれは、傷の舐め合いだったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ