最終決戦IF史実‐レイアとローレルの闘争
「知れば知るほど、本当に、もっと知りたくなるのよね」
想う、私は、世界が知りたい、のだと。
この世界は、無上に広く深く、趣があるので、
知れば知るほど、もっともっと、無上に知りたくなる、そういうモノとして、在るがままに在る、
私は、知識欲の虜、情報に恋しているのだ、と、自覚的に誇らしく想う、
そんな己を含めた、この世界が愛しい、
どうしようもなく、胸が一杯になり続けるくらいに、愛しくてしかたがない、のだ、だからぁ、、、。
この時には、彼女は、完全に勝利を予感し、回想に浸る、沈思のレイアだった。
だが、そのとき。
ローレルの操る機体が、レイアのアルファズムに迫る、いま、追いつく。
セイレーンシステムを全方位に展開している、その間隙を縫うように、次元切断の刃を飛ばす。
もちろん、複雑に推移する、方形の多面体の衣の、光速で移動する隙間、普通ならば絶対不可能。
しかし、完全未来予測を可能とする、レミニセンスの演算補助によって、それは可能となる。
戦略級の超巨大な機動兵器、黒の乱流を周囲に撒き散らし、光の流星を描きながら移動する。
その機体内部中央で、彼女、レイアは勘付く。
一瞬後には、機体の外部に取り付けられている幾つかの砲塔が、何かに両断された事を知る。
「今の盤上で、このような事が可能なのは、二人、そして、この局面ならば、彼女の方かぁ、、、」
レイアは一人察し、眼前の敵について思考を始める。
狂気の科学者にして、上級の魔法使い、ただそれだけの、優秀な、決して天才ではない存在、だった。
だが、私と同じ、誰よりも、運命を味方に付けて、最終的に生き残った、最終的な勝者の一角。
「ならば、最後は、己の真価で勝負を、勝敗をつけるのが、潔いでしょうか?」
呟きながら、溢れ出る高揚、愉悦の衝動を、抑えきれない己自身に、彼女は何ものにも変え難い喜びを認知する。
これが、最後にして末期の、最終決戦、
最後の戦いである事を、確信するゆえに、もう止めようも無い震えで、血の飢え、狂気の高ぶりで、可笑しくなる、なっている。
何ものにも勝る、最後の最後の、勝利を決定付ける、闘争、競争、優越の最終証明に至る階梯。
それに、それだけでなく、ある意味で都合良く、この巨大な機体では、彼女の、かの機体は落とせそうに無い。
このままチクチクされ続けたら、目的地に到着する前に、外部取り付けの装備 戦力を大幅に目減りさせる事になる、それは面白くない。
ならば手段は一つに、限られることになる。
本来ならば、遠隔操作で、レイア自身が操ることになる、ワンオフ機、その一つを使う。
十三の剣の、第一位、ブラックサラス。
完全体に至った、始めはコピーでしかなかった、矮小だった、成り上がりの己に相応しい、機体だ。
「出てきたわね」
巨大な機体から、吐き出される、ずいぶんと小型に見える機体を視認する。
スラスターが先ほどから、最大噴射を繰り返し、うるさいほどの警告音が鳴り響いている。
レミニセンスの、ギリギリのギリギリを切り詰める、絶対に故障しない程度の、オーバーフローの唯一弊害だ。
この二人の邂逅は、遥か昔に一瞬、
たったそれだけだった、しかし、それだけの因縁が、何ものにも二人にとっては勝る運命、絆とも言えた。
西側に亡命したとき、ローレルは、レイアのボロボロに傷つき、今に死にそうな瞳を目撃していた。
それは東側を抜ける時に、所属していたとある研究所での、出来事。
恐るべき子供達計画、その唯一の生き残り、レイアを見逃し、逃がして、研究所の破壊、崩壊を目論んだ。
その混乱に紛れて、研究所のデータを持ち逃げしての、亡命だったのだ。
だから、この瞬間が、まさに、お互いがお互いを、真なる敵と、認めた瞬間だった。
今は、今までは、お互いがお互いを、真なる敵とは、認めていなかった。
大いなる敵達に対して、己たちは、同士討ちを避けて、漁夫の利を得るために、協力し合う、そのような関係。
その関係を断ち切るように、次元切断の刃が鍔ぜった。
紅の刀身は、お互いの核を切り裂くように推移していた
そして、それを防ぐように、ほとんど同様の機動、刃と刃が触れ合った、
その一瞬後には、お互いの機体の加速性能も相俟って、遥か後方に追い抜く、そして反転。
ローレルは、内心、驚愕していた。
レミニセンスは、完全なる未来予測が可能、ゆえに、同性能の機体では絶対に負けない。
レイアも、驚きを隠しきれなかった。
誰よりも秀才であり、誰よりも用意周到に動く己の、ゆえの圧倒的な性能、
運命を手駒にし、盤上の己を勝者の舞台に、ステージの中央に常に誘導する、
この天才性に、およそ、通じない領域が存在したことに。
初めて経験する、それは衝動である。
科学信奉者であるローレルは、完全なる技術力が防がれたことに、精神の臨界を越えて焦燥した。
己の信奉者であるレイアは、完全なる、完全に至ったはずの、運命力が、通じない事に。
巨大な黒の機体の周囲で、
二つの機体が、更なる接触を果たすまで、今度も大して時間を要さなかった。