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深夜。
数時間前に来た、城のてっぺん。そこから、景色を眺める。
城下町はもう真っ暗。ほとんど何も見えない。と、いうことで、寝転んで、空を眺めることにした。
驚いたのは、月があった、ということだった。もっと詳しく観察すれば、違うのかもしれないが。それに、星もあった。
風が冷たい。
「ステータス、か・・・」
頭の中で念じる。
カイ 人間 勇者
パワー6
属性 雷
見えてしまった。俺が読んだ本では、もっと情報があったけど、それでも確かに、これはステータスだった。
「属性 雷、か。」
右手を前に突き出して、火でも水でも風でも木でも土でもない、雷を思い浮かべながら、力を込める。すると、右手を、青い雷が覆った。
この世界には、五つの属性があって、そのどれかを必ず持っている。そう言っていたけど、だったらこれは、なんなんだろう。そう考えたけど、それより、
「ステータスのことを、話せなかったな・・・。」
もしかして、ソラも。そう思ったが、ソラにには見えなかった。そうわかったとき、いうべきか迷い、伝えなかった。
(ステータスが見える、か。)
このパワー6の表示。これは、強さを表しているんだろうけど、もし、これがわかるなら。
(・・・・・・寝よう。疲れた。)
立ち上がって、そのまま、部屋へと歩きだした。
自分の部屋へ戻ろうとして長い廊下を歩いていた。そんな時、どこからか声が聞こえてきた。
かなり小さい声だが、物音ひとつないこの時間だ、聞こえる。
どこから、と声の元を探していると、一つの小さな部屋の前にたどり着いた。扉があいている。
もしかして。そう思ったが、盗み聞きさせてもらうことにした。
「さて、次の話題ですが。”勇者”について。」
勇者という言葉で、少し騒がしくなる。
「古の文献に基づいて行った勇者召喚。あらわれたのは2人の少年。勇者召喚について記されている書物はこれ一つ。多少違いがあっても不思議はない。2人で1人の勇者、それぞれが勇者であるが、なぜか2人召喚された。2人とも勇者ではない。様々な意見がのべられていますが、王子。聞けば、片方無能力者がいるとか。」
また騒がしくなった。
「ええ。間違いはありません。カイ様は、無能力者でした。それがなにか?」
この声は。王子の声。
「・・・無能力者。そんな者、この世界に存在を確認されていない。もしいたとしても、彼は勇者として召喚された身。あり得るはずがない。」
「それでも、召喚されたというのなら、何か意味がある。私はそう考えています。」
ええ人や・・・
「なるほど。しかし、それでは納得する人は少ないと、わかっているはずでしょう。その、意味がなんなのか、はっきりさせない限りは。」
盗み聞くのは、ここまでにしよう。
大勢の俺が勇者じゃないって意見。それに対する王子のそれは違うという意見。
もしかして。だったな。
そのまま部屋に戻って、ベッドに入った。
布団に入って寝るまでの時間。この時間は色々考えてしまう。
俺の知識にある異世界転生者は、死んでしまったからもう元の世界のことはどうでもいい、さらには第二の人生を歩めてラッキーなんて考えてたやつもあった。
転移者は、最初こそ元の世界に帰れるか心配するけど、異世界ライフに心躍らせて頭の外に考えが飛んでたり。
俺は・・・・・・。ただ普通に日常を過ごしていた。家には家族がいて、学校にはクラスメート、部活動の仲間たちがいて。楽しい日々。
それが、急に無くなった。それだけならまだいい。でも、地球での俺は、どうなってるんだ?いなくなった俺という存在。手がかりも何もなくて、母さん、父さんは・・・・・・。想像するだけで、目が熱くなってくる。こちらの世界と同じように時間が進んでいたら。どれだけ心配をかけているのだろう。
知りたい。そう、思った。今、どうなっているのか。知ったところで何かできるわけでもないけど、知ることで、ちょっとでも不安を和らげたい。でも、それは無理だった。
色んな思いが頭を駆け巡る。涙があふれてくる。
悲しさや不安で胸いっぱいになって。テンプレ主人公を見習いたい、そう、思った。