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勇者様。そんな単語を人に向かって平然と言い放ったその男は、こちらに歩み寄ってきた。
「私の名はコウ。このヤツシキ王国の、王さ。」
お、王様!?それにしては、若いように見える。っていうか、いろいろわけがわからん。
「聞きたいことはあるだろうが、まずは話を聞いてほしい。」
突然のことで驚いていた俺とソラに、畳みかけるように、話を進めてきた。
元の世界とは違う世界だということ、王国のこと、魔族のこと、召喚の理由。とにかく、重要なことを話されたのだが、詳しい部分や難しい言葉は頭に入ってこなかった。
まとめると、
魔王が長年の封印から解かれようとしている。そのせいか、魔族の動きも活発になっており、人間にも被害が及んでいる。魔王の力は強く、並の人間では太刀打ちできない。そこで、古い文献にあった、約1000年前に魔王を封印した方法にならい、勇者召喚の儀をおこなった。ということらしい。
「さあ、一通り説明した。質問があるなら聞こう。」
異世界召喚・・・・・・!本で読んだことがある。
「俺たちが目を覚ました時、誰もいなかった。それは、なんでですか?」
いわゆるテンプレでは、目を開けるとそこは異世界で、すぐに王様とかお姫様とかの出迎えがあるんだが・・・。
「・・・隠しても、意味はありません。なので、正直に申し上げましょう。勇者召喚の儀。文献には、一人の勇者を召喚するものだと書いており、その通りになるという予定だった。しかし。現れたのは二人。予想外の出来事に、対応するため話し合っていたのだ。」
なるほど、しかしその話と、俺の持っている知識を合わせると・・・いや、そうと決まったわけじゃないはずだ。
「あ、あの」
ソラが声を発した。
「元の世界には、帰れるんですか?」
恐る恐るといった感じで、質問したソラだったが、
「それは無理だ。元の世界に帰る方法は、文献には載っていなかった。」
そう言われてしまった。
やっぱり、といった感じではあった。でも・・・
元の世界に帰れない・・・か。正直、聞きたくなかった言葉だ。
「質問は以上か?では、場所を移したい。ついてきてもらおうか。」
外に出て、グラウンドのような場所に連れられた。周りは壁に囲まれている。漫画とかで見る、コロシアムみたいな感じだ。
「ここは・・・?」
「訓練場だ。君たち二人には、ここで力を見せてもらう。」
「力って、なんのことなんですか?」
ソラは、さっきから小さな声でしか話せていない。不安なのだろうか。
「この世界では、火、水、木、風、土の五つの力が存在する。基本、一人に一つの力が宿っているが、同じ力でも強さが違う。勇者は、すごい力を持っていたと、記されていた。この広い場所なら全力を出しても構わない。やってみてくれ。」
これはいわゆる、召喚された勇者の実力確認みたいなものだろうか。
力、か・・・よし。まず、自分の手のひらから、火をだすイメージをしてみる。
「んぐぐぐ・・・!」
どうやればいいのかまったくわからないのだ。ただただ手のひらに力を込める。
が、いつまでたっても火は出てこない。もしかすると、火の力じゃないのかもしれない。
そう思って、水、木、風、土をそれぞれイメージしながら、同じように力を込めてみたのだが、何も起こらなかった。
「ぜえ、ぜえ・・・。」
手の平に力を込めることを続けていたせいで、手が痛い。
「ちょっと、ソラもやってみてくれよ。」
一度、ソラに振ってみる。
「わかりました。やってみす。」
俺と同じように、手を前に突き出して、しばらくすると・・・
あたりが、一気に暖かくなった。ソラの手のひらから、炎が発生していた。
その炎は、ソラをあっという間に包んでいき・・・って、
「大丈夫なのか!?あれ!」
炎の塊を指さしながら、叫ぶ。
「大丈夫です。自身の力で、自身が傷つくことはありません。」
しばらくして、炎が消えていった。
「ソラ君!大丈夫か?」
駆け寄って確認したが、ソラの体になんの変化もない。服とかも焼けてない。
漫画とかでありがちの設定だが、実際に見ると、どうなっているのか気になる。
でも。深く考えないようにしよう。
「どうやったら炎が出たんだ?」
「自分の手の平から火が出るイメージをしたんです。」
俺のやり方と同じだ。でも、俺はなんの反応もなかった。
「ほかの4つの力はどうだ?」
「やってみます。」
と、ソラはさっきと同じように手を突き出していたが、
「だめです。何も起きません。」
「そうか・・・。じゃあ、火を出すときに、どんな感じがしたのか、教えてくれ。」
「いいですよ。えっと、・・・。」
それから10分くらい、アドバイスを頼りにやってみたが。
「はあ、はあ、はあ・・・。」
何にも起きない。もしかして、俺・・・
「無能力者、ですね。」
「あり得るんですか?」
「いいえ。いません。この世界に存在するものすべては、必ず5つのうち1つの力を、持っています。つまりあなたは、・・・なんなのでしょう・・・。」
困られてしまった。
夜。城のてっぺんに一人でいた。町並みの景色を眺めながら、考える。
・・・・・・異世界召喚。
自分が召喚されて考えたことは、いわゆるテンプレとの比較だ。
何もわからないという恐怖から逃げるために、自分の持っている異世界召喚の知識を引き出していく。
俺の知ってる主人公は、話上手で、やけに人の考えが読めて、勝負強くて、やるときやって、一対一に強くて、交渉上手で、トラブルにあうことが嫌いなのに、やたらとトラブルにあって、その都度解決して、見返りをきっちりもらって、自由を好んで。
うーん。自分でも、偏った知識だとは思う。
けど、そういうヤツが成功していく物語なんだよなあ、異世界召喚モノって。
自分は・・・
無能力だと知って、ショックだった。
俺の知識では、主人公は何らかの力をもっていたはずだ。それが思いもよらない力だったり、
して、とか。あとは、初めからチートを持ってるってわかってたり。そういう場合は、神様の力で、とかが多かったりする。最近知ったのでは、死に戻りとかあったな。でも、確かめるために死ぬなんてことはできない。
確かめる・・・!ふと気づく。ステータス!よく、ステータスで能力を確認しているじゃないかそういうことが、俺にもできるかもしれない。そう思って、頭の中で、ステータスと念じてみた。すると・・・。
部屋に戻る。俺とソラの二人部屋だ。一人でいるより、ふたりのほうがいいと、二人部屋にしてもらった。
部屋には二つのベッドと、この世界についての基本が書かれている本が何冊かはいった本棚、それだけがあった。