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暖かい。はっきりしない意識は、第一にそう感じた。
第二に、今自分は布団の中にいるのだと理解した。
久しぶりの柔らかな感覚に、いつまでもこうしていたいという
気持ちが沸いてくる。
しかし、それは長くは持たなかった。
自身の持つ最後の記憶が頭に浮かんだ瞬間、体が
跳ね起きる。確か自分は戦っていたはずだ。
なぜ今こんな幸福な時間を過ごしていたのか。一体あの後
どうなったのか。頭の中が混乱し、体も混乱する。
なにをすればいいのかわからず、とりあえず動こうとする。
すると
「あへ。」
情けない声を上げながらベッドから転げ落ちる。鈍い痛み。
地面に転がる自分の体は重く、思うように動かない。
しかし、うまく動けなかったのはそれだけが理由ではなかった。
違和感に目を向ける。右腕がない。
驚きがなかったのはまだ頭が働いていないせいなのか。
「おはよう。」
声がしたほうを向く。
「気分はどうだい?」
続けて質問をされる。
「わからない。」
仰向けの状態で見たその顔は、
「そう。それはよかった。」
笑顔だった。