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なんとなく感じていた不快感の正体はわかった。
僕は高い所が苦手だ。高所恐怖症とまでは言わないけど。
それじゃあ次の質問をしよう。
「じゃあなぜ僕は今ここにいるんですか?」
地図を見る限り、火の精が祭られている洞窟とはかなり離れている。というかこの場所自体が、他のどんな場所からも離れているんだけど。
「ミカが連れてきたんだ。その時に大体のことは聞いた。君が腕を失ってるのを見て、私に頼ることにしたんだろう。」
「頼るって……僕の腕をどうにかできるんですか?」
「ん、まあできるにはできるよ。私がここにいるのもそれが理由だし。まあその前に。」
スズさんがカップの中身を飲み干す。
「腕がなくなった感想を聞かせてくれないかな。」
なんでそんなこと……とは思ったけど素直に答えることにする。
「なんて言うんでしょうか……驚きがないです。目が覚めたらこうなってましたし。あの時は正直どうなるかわかってなくて、最悪死ぬかもしれないとも思ってましたから。こんなこと言うのはなにかおかしい気がしますけど、生きてるだけでも良かった……なんて。」
「生きてるだけで良かった、ね。なるほどなるほど。」
「何か変なこと言いましたか?」
「いや。別に変なことは言ってない。人間としては普通のことだ。君、勇者なんだろう?ミカから聞いたよ。その勇者である君が腕一本失ってそんな普通の感想しか出てこないっていうのはどうなのかなって思ってさ。」
勇者……か。
「ソラ君は自分が勇者であることをどう思ってる?」