26
「ぐあっ。」
「くっ。」
僕とミカ、2人一緒に壁に叩き付けられる。
「正直、ここまでとはな。参った……。」
「あきら……めるなん、て、言わないでください、よ。」
そうは返したが、限界が近い。限界、が……
「この体も限界かな。」
突然の声に、意識が覚醒する。今のは……?
見ると、ルタの背後に黒い霧のようなものが小さなヒトの形を作っている。
「お前は……?」
「おやおや、随分弱ってるね。まあいいや。自己紹介させてもらおう。」
その黒い霧は丁寧にお辞儀なんてして。
「はじめまして。月光姫です。よろしく。」
すると、ミカが知っているような口で言う。
「まさか。月光姫とは驚きだ。」
「火の精霊ともあろうお方がなんて弱さだから、偽物なんじゃないか、なんて思っちゃったけど、やっぱり本人なのね。」
「ほっとけ……!」
「こんな全然力を出せない借り物の体でも楽勝なんだから、随分力が衰えたんだね。」
「……お前だって昔とは程遠いんじゃないのか?」
「何を根拠に。」
「今回はたまたまその体が強かっただけだ。そいつ以外だったら今頃お前なんかぼこぼこにしてやってる。」
「……まあいいわ。この体、もう私の力を宿すにはボロボロだし。最後に大きな一撃ぶっ放して、終わらせてあげる。」
ボロボロ……!?そんな。
地が震える。ルタの左手から青黒い炎が溢れている。
「黒炎、か。随分とこりゃ珍しいものを見れた。……残念だ。」
残念。その一言が何を意味するのか、わかってしまった。
「ソラ。私の力を一時的にお前に渡す。その力の全力で、あいつに迎え撃て。」
「そ、そんなことしたら……。」
ルタを殺してしまう。体がもうボロボロだって言ってた。だから嫌だ。そう、言いたかったのに。
「何もしないで死ぬよりマシだ。頼んだ。」
そうだ。何もしなかったら、こちらが死ぬ。
視界からミカが消えると、自分の体に力が湧いてきた。
限界だと感じてた体が、自由に動く。
この時の僕はただ必死だった。死の恐怖なんて微塵も感じなかった。
自分の全てをこの一撃に込める。その想いで、放った。
「うおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
僕の放った一撃が、ルタの一撃とぶつかり合って――――――