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作者:

まともな恋愛もの初投稿。

書いてて気づきました。私、向いてない…

書いてて何とも言えない気持ちになりましたorz

夕暮れも過ぎ、薄暗くなってきた。

遠くから部活が終わっている時間のせいかちらほらと楽しげな話し声が聞こえてくる。

その声も、己の吐く白い息もただ一箇所を見る少女の意識には入ってこなかった。

ただ受け入れなく無い現実に納得してしまう一方で心の奥底から湧き上がってくる形容し難い感情が暴れ出さぬよう押さえつけるのに必死だったからだ。


少女ー白神弥生は大学受験を控えたどこにでもいる高校生だ。

成績も可も無く不可も無く中間辺りをうろうろする程度。

授業態度も良いとは言いきれないが悪いとも言いきれなかった。ノートも取るし寝るわけでもない。だが決して自分から発言はしなかったり落書きはしたりと集中しているわけでもなかった。


そんな彼女にも好きな物はあった。

それは弓道だった。

別に幼い頃から好きな訳でも無かったし興味があった訳でも無かった。

ただ高校入学仕立ての頃、たまたま見学した時、凛とした静かな空間、当たった瞬間発せられる鋭い音、当てた者を称えるような仲間の「よし!」と言う声。その全てに魅せられた。


入部してから半年は基礎的な筋トレばかりで何度も挫けそうになったが毎日の見取り稽古で気持ちを改め、そして、弥生の幼なじみである翔太の存在も大きかった。


桐島翔太。

弥生と同い年で家も近く、物心付く前からの良き友人である。

顔はそこそこ。だが背が高くガッチリとした体格でいつも明るく、クラスのムードメーカー的存在な為かそこそこもてた。

中学の頃は仲の良い2人をはやし立てる声が多かった。勿論弥生はいじめられた。

理由は簡単。

翔太と付き合っていないのに仲良くするから。

ただの友達だと、友情に男女は関係ないといくら言い聞かせようと思春期、特に恋愛に関して関心を持ち始めた周囲からしたら照れて反論しているようにしか感じなかった。


それが女子達の心を煽った。


辛かった。消えたかった。もう、放っておいて欲しかった。

だけど周りは敵だらけ。

信用していた友人達もいじめが酷くなるに連れて離れていった。

ただ一人、翔太を除いて。


翔太は変わらなかった。

変わらずクラスが離れようが廊下で会えば話してくれる。涙を流せば励ましてくれる。やり返す事を決めた時は怒るでも諭すでもなくただその選択を受け入れ背中を押してくれた


感謝していた。

いや、今もしている。

だから同じ高校だと知った時は嬉しかったし心強かった。同じ部活なら尚更。


三年間、辛いことの方が多かった。

大会で勝つ事が出来なかったり部の目標である初段を取ることが出来なかったり向いていないと何度も諦めそうになった。

部内の女子達と上手くいかない時もあった。

だけどその分練習だろうと当てたり、意地と執念で初段を取ったり、少しずつ周りに認められたりと嬉しいことも大きかった。翔太と共に頑張っていられる事がただただ嬉しかった。


「……バカみたい」


沢山の楽しい思い出が溢れ出ると同時に目の前、正確には校舎裏で抱き合っている男女を見ながら薄く張ったそれを零さないように目に力を入れた。


ここを通ったのはただの偶然だった。

いや、もしかしたら必然だったかもしれない。弓道場の鍵は職員室に返すのが決まりとなっていた。それは昔盗難が起きたからだという。鍵は1番遅い人が返しに行く。これには学年は関係が無かった。

普段はさっさと片付けて帰る所だが今日は教室に忘れ物があった為その役を買ってでた。

弓道場の鍵を返して教室の鍵を借り、教室に向かう廊下の窓からそれは見えた。


そう、たまたま、偶然に、だ。


初めはただ話しているであろう男女の姿。

それならば弥生も普段は気にも止めない。だがその姿には見覚えがあり過ぎるくらいあった。制服に着替えた少し短めの黒い髪の男子生徒。遠くて表情は見えないが翔太で間違い無かった。

共に居るのは去年入った部活の後輩だ。

背は小さいが元気で明るい性格から直ぐに部活に馴染んだ女の子だ。

二人は数分言葉を交わした後ゆっくりと近づき求め合うかのように抱き合い、影がかさなろうとしていた。


弥生はいつの間にか掴んでいた窓枠から白くなった手を離し、ゆっくりと息を吐いて目を逸らした。

見てはいけない気がしたのだ。

見てしまっては後戻りできない感情に支配されてしまいそうだった。

それがなんであるか、答えは知っているが認めることはできなかった。出来るはずがない

少しぎこちない動きのまま教室に行き忘れていた携帯をポケットに乱雑に突っ込みしっかりと施錠して職員室へと走った。

少々回り道となるが先ほどの廊下とは別の廊下を通って行った。

職員室から漏れでる光が寂しく見えた。







********************


「弥生ー聞いて驚けよー?」

「何よ、私忙しいの」


次の日、翔太はいつも通りだった。

昨日の事は全部見間違いかと疑ってしまうが弥生が翔太を見間違う事など有り得ない。それ程までに弥生は翔太の事を見ていた。


「ちょっなんだよーツンケンして。まぁ、とりあえず聞けよ、んでもって祝え」

「別に…ツンケンなんてしてないし…てか何を祝うのよ」


嘘。


目を逸らしながら可愛げのない言葉を吐く。

祝う事など分かっている。

後輩と付き合う事の報告だろう。

弥生も翔太も中学の噂のせいで付き合うことは一度もなかった。

初めて付き合うから、祝え、ということなんだろうと当たりをつける。

幸せそうに笑っているんだから、間違いない


「実はなー俺、昨日告白されたんだよ!」

「へぇ…物好きっているのね」

「ちょ、リアクションがガチ過ぎて俺泣いちゃう」

「勝手に泣いてれば?」

「弥生が冷たい!!」


顔に両手を当て、まるで泣いているように肩を揺らす翔太を見て弥生は気づいた。


「ねぇ、その手の傷、どーしたの?」

「あー…これ?………ちょっと、な」


翔太の右手の甲には引っ掻き傷の様な線状のまだ赤い傷が付いていた。

昨日部活が終わる時には付いていなかった。

きっと家で猫にでも引っかかれたのだろうと無理やり納得させる。


「ふーん…ところでさ、これ今日提出だけど翔太は終わったの?」

「………提出、だっけ?」


間。


「………」

「………」


この間、たっぷり十秒。


「頼む!弥生様!」

「仕方ないわね…はい、授業迄には返してよ」

「ありがとうございます!!!」


じゃ!と言って自分の席に戻る翔太を見ながら少しだけ弥生は安心していた。










********************




「弥生、今日暇か?」

「は?部活だけど?」

「いや、それは俺もだし!」


放課後いきなり翔太に声をかけられた。

休み時間と比べて話す機会が少ないため、

それだけで一瞬ドキリとしたが昨日の今日なので仕方の無い事だろう。


「部活が終わってからだって!」

「え?うーん……うん、まぁ、特には」

「じゃあちょっと待っててくんね?」

「別にいいけど…あんまり遅いと帰るからね」

「おう」


からりと笑う翔太に一瞬見惚れてしまったのはきっと、気のせいだ。









********************



部活が終わってから日が沈むのが早くなった。昨日よりもまだ少し明るいが校舎の中は伺い見ることはできず、昨日見ていた事はバレていないようでホッとした。

「先輩」

「っ…どーかした?」


びっくりした。

後ろから声をかけてきたのは昨日翔太と抱き合っていた後輩だ。

バレていないとはいえ見てしまったものは意識してしまう。

寧ろバレていないから余計に罪悪感を抱いてしまう。


「先輩…私、昨日告白したんです」

「へぇーそーなんだ」


どもらずに言えた自分を褒めたい。


一人謎の達成感を感じつつゆっくりと後輩ー内田呉羽に向き直る。

これはきっと目を背けてはいけないことだ

いきなりこの話を振ると言うことは、彼女は知っているんだろう。弥生が必死になって隠しているものを。

覚悟を決めてじっとその目を見た。


「翔太先輩に、告白したんです」

「そう、なんだ」


呉羽の声は少し震えていた。


「…驚かないんですか?」

「うん?一応これでも驚いてるよ」


驚いた。嘘は言っていない。

まさか直球でくるとは思ってもいなかったからだ。もっと遠まわしな言い方をすると思っていた弥生は内心ではかなり驚いていた。


「…返事、気になりますか?」

「んー、そーだねぇ〜私が聞いて良いなら」

「……先輩には、聞く権利ありますよ」

「……そう?」


これまた驚いた。

普段常に笑顔でよく表情筋が疲れないものだと感心していたが今はそれも鳴りを潜めて真っ直ぐに見つめ返してきていた。


高鳴る鼓動をそっと左手で押さえつつ弥生は負けじと見返した。


「……ふられ、ちゃいました」


「………………ぇ、?」

「好きな人がいるそうです」

「……ぇえ?」


待て待て、ならば昨日の抱擁にき、キス…は一体何だったんだ。

付き合ってもいないのにそんな事をするのか?いや、でも翔太も呉羽もそんな性格ではない。では、何故?

本当に昨日のあれは見間違いだったの?


「…先輩はどうなんですか?」

「え、わ、私?」


先程とは比べ物にならない程の迫力に思わずたじろぐ。

どう、と聞かれれば好きだと答えることは分かっている。が、それが友達としての好きなのか、恋愛方面での好きなのか、弥生はまだ答えを出していないからだ。


「……ぇと………私、は…」

「………後悔だけはしないで下さいね」

「…え?」

「じゃあ先輩、お疲れ様でーす!」

「えぇぇ?お、疲れ様」


ポツリと小さく呟いた後、先程までの真剣な表情から一転、笑顔で手を振りながら呉羽は走り去ってしまった。


一人取り残された弥生はただ呆然と己の中に渦巻く感情に振り回されていた。

薄暗い中でもわかる程度に頬が染まっている。それを呉羽は答えと見て言葉にする前に立ち去ったに過ぎず、弥生の戸惑いを見抜いたわけではなかった。


「……後悔だけはしないで下さいね、かぁ」


後悔、するのかな?

でも何を?

翔太との事?

でも、翔太は友達で、幼なじみで…私の……


「弥生!」

「ひぅっ」


突然肩を叩かれ思わず飛び上がるほど驚いてしまった。


「そんな驚く事かよー」

「うっさい!びっくりするものはするの!」


ケラケラと笑う翔太を思わず振り返りながら睨みつけてしまうのは仕方の無い事だろう。


「…それで?」

「ん?」

「ん?じゃないでしょ!何で呼ばれたわけ?」

「あ、あー…言わないとダメ、か?」

「…怒るよ?」

「だよなー」


うんうん、と頻りに頷く翔太に弥生は思わずため息をついた。

怒った所で怖くは無いだろうし基本無視するだけだから害も無い。つまり別に気にするほどの事でもなかった。


いつもの軽口が終わった。


きっとここからが本題だろう


長年共にいるせいか何となく相手が話し出すタイミングは分かっていた。勿論、翔太も

それはおそらく勘と呼ばれるものだと言うことも理解しているが、それが今は恨めしい。

それがなければ誤魔化すことも、逃げる事もできるのに


「俺、告られたって言っただろ?」

「うん」


ズキリ

胸が痛い。苦しい。

これは何だろう。何なんだろう。

呉羽の話を先に聞いたからだろうか

自分の事なのに分からないのが、怖い。


「あれな、断ったんだ…好きな奴がいるからって」

「そ、うなんだ…」


痛い。苦しい。何故か泣きたくなる。

何故、こんな事を聞かされないといけないの

呉羽には後悔するなとは言われたけど、もう後悔しかない。

だって…だって翔太の隣は-


「なぁ、何で泣きそうなんだよ」

「…わか、んない」

「……期待してもいいのかよ」


怒り。悲しみ。苦しみ。その全てを混ぜたかのようなどす黒い感情が胸の奥底から湧き上がってくるのを感じる。

怖い。

自分が別の何かに変わっていくようで、怖い

答えを出してしまうのが、怖い


「俺が好きな奴、弥生になら教えてもいい」

「……」


翔太の、好きな人…

聞きたい。だけど、聞いてしまったらきっと私は後戻りできない。だけど、聞きたい

矛盾しているなど、自分で分かっている。


「……………いいや」

「……そっか」


弥生は翔太のずっと隣にいられると思っていた。だがそこを取られるような危機感の様なものを感じていた。

小さな頃から隣にいるのが当たり前だった。

いつかは離れなければいけないことは分かっていた。だけど、そんなのもっともっと先の事だと思ってた。

だけど、だけど…


「……ずっと隣にいる事はできないんだよね」

「弥生?」


分かってた。覚悟が足りなかった。

ただただ後回しにして逃げていた。

だから、答えを出せなかった。


「翔太」

「ん?」


覚悟はまだ足りない。

でも、答えを出すのではなく、知ってしまったら、どうすればいいのだろう


「翔太」

「だからなんだよ?」


あぁ、きっと泣いてしまうのだろうという予感が胸をよぎる。それでも知ってしまったのだから仕方ない


「………き…好きだよ」

「…え?」


怖い。

顔を見る事が、

返事を聞くことが、

今、ここにいることが


だけど、後悔、したくない


「私、恋愛とかよく分かんないけど、多分、ずっとずっと前から翔太の事が好きだった。それを認めたら翔太と一緒に居れない気がして認めるのが怖かった。私は…それでも、私は翔太に好きな人がいるって分かったのに一緒にいるなんてできない!友達でいたい。でもそれ以上を望んでしまうの!隣にいたら!だから……だから、…」

「……弥生」


…言ってしまった。

あぁ、どうしよう。

言わなくて良いようなものまで言ってしまった。もう、後戻りは、できない。

そこまで考えた途端、先程とは少し違った恐怖が弥生を襲った。

それは今までの当たり前が変わる恐怖。

ずっと隣にいた。でも、もう隣には居られない。それは今までとは違った生活になるということ。


「弥生、俺は…」

「…っ、……」


分かっている。

振られることくらい。翔太に好きな人が居るのだから。覚悟は、足りないけど


「……ぅん、ごめんねーあんな事言って」

「やよ」

「分かっているよ、好きな人、いるもんね」

「…」


でも、好きな人にちゃんと向き合ってもらう最後のチャンス。せめて笑っていたい。

失恋してなく自分より笑顔の自分を覚えていて欲しい。


「ありがとう。翔太」


それとごめんね、話があるって言ってたのに逆に話を聞いてもらって。


「翔太が私の初恋だった」


翔太を好きだともっと早く答えを出せてたら違っていたのかな?

例え違っていたとしてもそれは"たられば"の話で今を変えることはできない。



結局私はその日から翔太を避け始めた。

翔太を恋愛対象として見ないために。

少しの空白期間が欲しかったからだ。

何度か翔太はこちらを気遣うように見ていたが数ヶ月したら去年卒業していった先輩と付き合い始めたと噂が流れた。

初め聞いた時は苦しかったし悔しかった。

だけど同時に良かったとも思った。

翔太には泣いて欲しくない。

好きになった人と幸せになって欲しい。


そんな事を思う私はバカなのだろうか…


まぁ、そんな事も関係ないかと今日も今日とて翔太を避ける。

いつかその日がきたら笑顔で"おめでとう"と言おう。その日までは……




ありがとうございました( ´ ▽ ` *)

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