月の申し子
道端に転がる、何の変哲もない石を手に取る。日陰に落ちていたその石は、ひんやりと冷たかった。
もしも、この石が月の申し子で、宙から降ってきた石ならば、とてもとても特別なものだろう。
だけど、もしそうだとしても、誰も気づかないし、信じない。
これは普通の石だよ と笑うだろう。
私は憤りを感じていた。
だって、人々はあなたのこと、まるでこの石のように扱うから。
私は知っているの。
あなたは月の申し子。
とてもとても特別な人。
聡明で、思慮深く、美しい心の人。
あなたに向かってそう言って、悔し涙を流したら、あなたは笑った。
「ありがとう」って目を細めて、とても優しく、そして少し困ったように、笑った。
「君の気持ちは嬉しいよ。
・・・だけど、仮に僕が月の申し子だったとして、それは特別と言えるかな?」
あなたの言葉に「どういうこと?」と私は目線で尋ねてみる。
「月が僕の父だったとして、その偉大なる父ですら、この宇宙では取るに足りない。
太陽があって、地球があって、この星に住む僕たちがいて、初めて月は特別な意味を持ったものになるのさ。
僕がもし月の申し子でも、それ自体では普通の石と変わらない。
生きていて、君がいて、僕を思う君の心があって、僕は初めて特別になれるんだ。
お前は普通の石だと誰に笑われたって構わない。
この石のように、君の目に見出され、拾ってもらえるなら、僕はそれだけで充分さ」
そう言ったあなたの顔は確信に満ちていた。
・・・ああ、やっぱり
あなたは月の申し子。
本当に特別な人。
誰がどんなに罵っても、私はそのことを疑わない。
手のひらの石を握り締め、私はあなたに向かって「好きよ」と言った。
勝手にやってろの二人でした。(^^;)
お付き合い下さりありがとうございます。